『沖縄の名城を歩く』 わしたグスクへの熱い思い


社会
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『沖縄の名城を歩く』上里隆史、山本正昭編 吉川弘文館・2052円

 城郭マニアという言葉がある。とある旅行会社では、城めぐり専門のツアーが組まれ、「名城100」など、各地に城郭マニアが集い、いにしえに思いをはせている。私も何度か案内をしたことがあるが、どうも沖縄のグスクは勝手が違うと彼らは口をそろえる。それもそのはず。県内各地にあるグスクも「城」という字をあててはいるが、ひとくくりにできない要素がたくさんあるからだ。

 サンゴの島は、琉球石灰岩という石材、金属はないので切石の加工の問題もある。加えて、背景にある歴史も違う。説明するにしても、前提となる環境が違うのだ。吉川弘文館の“名城を歩く”シリーズは、彼らからもとても人気がある。その沖縄編が刊行された。執筆陣はグスク研究に携わってきた重鎮から、考古学第一線で最先端にいる研究者まで申し分ない。図版も惜しみなく使われており、マニアの心を熱く刺激する。

 掲載されているグスクは、世界遺産はもちろん、国指定史跡、そしてあまり知られていない小型のグスクまで。そして沖縄本島のみならず、離島部までカバーが広い。なにしろ、掲載されている46グスク全てに所在地住所や交通アクセスが付いていて、“現地に行ける”解説書なのだ。薄い本なので、目的のグスクまで携帯し歩きながら楽しめるはずだ。

 ひとつ断っておきたいのは、本書はありそうでなかった画期的な本でありながら、入門者には敷居が高いかもしれない。シリーズの特徴から、最初から城郭マニア向けとして構成されたと思うが、学術用語が並び、解説を難しく感じる読者もいるだろう。一方、本土の城郭マニアでも、沖縄独特の地名や人名にとまどうかもしれない。持ち歩くことを考慮すると、紙面の限界はあるので、そこが惜しいと思うところ。

 いずれにしても、本土の“城”よりも早い時期に石積みの技術が出現し、三重グスクのような特殊なグスクにいたる多様性、戦うグスクから、迎賓館のような首里城まで。研究者のグスクへの熱い思いが、行間から読み取れ、わしたグスクを誇りに思える1冊である。

 (賀数仁然・構成作家・ラジオパーソナリティー)

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 うえざと・たかし 1976年、長野県生まれ。法政大学沖縄文化研究所国内研究員。

 やまもと・まさあき 1974年、大阪府生まれ。県立博物館・美術館主任学芸員。

 

沖縄の名城を歩く
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