【深掘り】滞在わずか4時間 沖縄全戦没者追悼式で見えた沖縄県と政府のすれ違い


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追悼式会場で安倍晋三首相(前列左)を迎える玉城デニー知事(同右)=23日午前、糸満市の平和祈念公園(喜瀬守昭撮影)

 戦後74年目の「慰霊の日」、玉城デニー知事は初めての「平和宣言」で、普天間飛行場の一日も早い危険性の除去と辺野古移設断念を求めた。辺野古移設を巡り、今後県は、埋め立て承認の効力が取り消されたことに関して政府を提訴する予定で、対立は続く。県側との「対話」を避けるかのように安倍晋三首相は4時間で沖縄を後にし、式で知事と長く言葉を交わすこともなかった。辺野古移設を進める国の強硬な姿勢と断念を求める県との深い溝が際だった「慰霊の日」となった。

 玉城知事は23日にあった沖縄全戦没者追悼式の平和宣言に米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設の断念を盛り込み、改めて対話による解決を政府に求めた。安倍首相はあいさつで「辺野古」には直接言及しなかったが、基地負担軽減に取り組むとして移設を進める考えを示した。会場では知事への拍手と首相へのやじが例年以上に目立ち、県と政府の対立の溝の深さを際立たせた。

 ■独自色

 知事就任後初となった玉城氏の平和宣言は辺野古新基地建設反対を訴えた翁長雄志前知事の方針を踏襲しつつ、うちなーぐちや英語を採り入れ「デニーカラー」(県幹部)をちりばめた。「ちむぐくる」や「対話」など多用してきたキーワードも盛り込んだ。昨年の翁長氏の平和宣言より文量も増え、県幹部の一人は「全県に浸透させ、世界に発信したいという知事の強い思いが込められている」と説明する。

 玉城知事は戦後74年たち、なお集中する米軍基地が「今や沖縄の発展可能性をフリーズさせていると言わざるを得ない」と指摘。今年2月の県民投票で「辺野古反対」の民意が示されたことにも触れ、結果を無視する政府の対応は「地方自治をもないがしろにするものだ」と力を込めた。

 ■溝

 玉城知事の平和宣言には会場から拍手や指笛が起こったが、その後の安倍首相のあいさつに対しては怒声ややじが相次いだ。

 第1次政権を含めると8度目となった追悼式のあいさつで、首相は「基地負担軽減に向けて一つ一つ、確実に結果を出していく決意だ」と述べ、キャンプ瑞慶覧・西普天間住宅地区の返還が現行の米軍基地の返還計画に基づき実現した「初の大規模跡地」だと強調した。跡地利用の推進や沖縄振興に注力することで辺野古移設への理解を得たい思惑をにじませたが、すれ違いが際立った。

 別の県幹部は「全く心に響かない。沖縄の歴史を背負う知事とは本気度が違う」と受け止めを語った。

 ■滞在4時間

 首相の日程は追悼式への出席のみで、約4時間の滞在で沖縄を後にした。出席した閣僚では河野太郎外相が22日に玉城氏と会談したが、岩屋毅防衛相も追悼式以外の公務はなかった。政府関係者は「沖縄にとって特別な日に辺野古の話はしづらい。会談したところで平行線に終わる結論は見えている」と語る。

 玉城知事と首相が追悼式の会場で会話を交わすことなく、その後の見送りの那覇空港でも、玉城氏が首相に出席のお礼を述べた程度だったという。

 辺野古移設を巡っては、埋め立て承認撤回の効力が取り消されたことに関して今後県が政府を提訴する予定で、再び法廷闘争に突入しようとしている。

 首相は追悼式後の記者団の取材に「辺野古移設は基地を増やすものではない」と語った。記者団からこの点を問われた玉城知事は「普天間飛行場にない機能を持たせようと辺野古を埋め立てて造る基地は、新しい機能を持った新基地だ」と反論し、県外・国外移設を求めた。
 (當山幸都、明真南斗)