「誰が何をどうしたか」という外形的な事象からのみ出された表面的な判決だ。DV被害の内容は明らかでなく、母親がなぜそのような心理状態になったのかを知るための心理鑑定が行われた形跡もない。起きた理由を見詰めなければ、子どもを守るために何ができるのかを考えることはできない。
心理鑑定を含む精神鑑定をする過程で、加害者自身も多様な見方を知り、自己を内省できる。それもなしに「反省しろ」と言われても自らを責めるだけでは更生にはつながらない。
父親についても、精神鑑定をして虐待がここまでエスカレートした心理を読み解くことが絶対に必要だ。
虐待死事件の背景には社会的要因が大きい。今回も教育委員会や児童相談所の対応の問題が指摘されている。加害者だけの問題にしては「トカゲの尻尾切り」で事件は減らない。教訓を学び取る姿勢に乏しい日本の司法制度、社会的支援の不足を含め、私たちが社会の在り方を考えることこそ必要だ。
(西澤哲教授、山梨県立大学 臨床心理学)