『琉球諸島の動物儀礼』 肉食による地域の防災


社会
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『琉球諸島の動物儀礼』宮平盛晃著 勉誠出版・6696円

 日本では、米の文化を優越させたために、肉食が忌避され、基本的に食用動物との間に距離感がある。しかし近代になって日本に組み込まれた北海道と沖縄においては、肉食が一般的で動物との距離が近い。

 特に沖縄では、豚や山羊(やぎ)など家畜の肉食は盛んであったし、動物儀礼にも特徴的なものが多い。中でもシマクサラシは、カンカーなどとも呼ばれ、沖縄全島に広く分布する。これは村落への厄災の侵入を防ぐために、村の入り口に動物の肉や骨や血などを掲げる防災儀礼であり、肉の共食も行われる。

 こうした動物儀礼は、古くから注目を集め、いくつかの先行研究がある。ただ、限られた調査事例を基にしたもので、屠殺(とさつ)と肉食を伴うことから、動物供犠(きょうぎ)として捉える観点が強かった。

 ところが著者は、シマクサラシ儀礼の沖縄全島における悉皆(しっかい)調査を敢行し、39市町村535村落での事例を確認した。そして、その膨大なデータを武器に、シマクサラシ儀礼の全容解明に挑んだ。こうした地道で根気のいる民俗調査は、非常に理想的な研究態度といえよう。

 当然、こうした儀式は長い間に複雑な変容を遂げているが、著者はこれらの事例を丁寧に整理し、名称や分布・儀礼内容・供物・祭祀(さいし)者などの詳細な比較検討を行った。

 シマクサラシには供犠的な要素はなく、防災のための動物儀礼で、本来的には牛が用いられており、それが豚や山羊さらに鶏へと変化したとする。しかも村の入り口に掲げられた肉や骨や血は、肉を食べたことを示す証拠品であったという。つまり村人は肉食によって特別な力を得ているから、その証拠を示して、災厄に村に入ることを断念させるという論理である。

 こうした結論は、悉皆(しっかい)調査ならではの大きな成果といえよう。さらに防災という観点から、ムーチー(鬼餅)や宮古のパーントゥなどにも論及しており、興味深い。シマクサラシと鉄との関連も匂わせているが、これは今後の課題とすべきだろう。

 (国士舘大学教授・原田信男)

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 みやひら・もりあき 1978年沖縄県生まれ。沖縄国際大学総合文化学部非常勤講師。専門は南島民俗学。著書に「捧げられる生命-沖縄の動物供儀」など。

 

琉球諸島の動物儀礼―シマクサラシ儀礼の民俗学的研究
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