「まだ打ち明けられない」 ハンセン病家族訴訟勝訴でも続く“知られる恐怖”


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法廷に向かうハンセン病家族訴訟の原告ら。県内から250人が参加した。勝訴判決に「立ち上がるきっかけになる」と2次提訴に向けた期待の声が上がる=6月28日、熊本市の熊本地裁前

 「ハンセン病家族訴訟」判決から2日後の6月30日、沖縄県那覇市内で開かれた報告集会。参加した原告の60代女性は、家族が受けた偏見差別に対しても国の責任を認めた判決に「家族の被害を多くの人に知ってもらえて良かった」とした上で「ただ、偏見差別のある社会が変わるのは簡単ではない」と漏らした。

 偏見への怖さが染みついた原告ら。集会の参加者はそれぞれ「まだ周囲に打ち明けることはできない」と声をそろえた。

 判決はハンセン病患者の家族が差別を恐れて「結婚、婚姻関係、交友関係、就労などに支障が生じるのではないかと大きな心理的負担を感じてきた」と権利侵害を認めた。

 60代女性も、その被害を受け続ける一人だ。きょうだいが元患者だが、夫や子どもたちには秘密にしている。知られる恐怖心を植え付けたのは父だった。ハンセン病を遺伝病だと思っていた父は母を非難するようになった。「母に原因があると思ったんだろう」。父の性格は変わり、飲酒しては荒れ、暴力も振るわれた。親元を離れた後も当時を思い出しては「殺してやろうと思うことがあった」と涙で声を詰まらせた。

 判決後、原告勝訴の報道に夫は関心を示したが、父の変化が頭をよぎり興味のないふりをすることしかできなかった。末っ子だった女性は大切なきょうだいを隠しているようで気持ちは晴れない。「国は反省し差別をなくす取り組みや法整備を進めてほしい。家族が自分の経験を、声を大にして笑って語れる日が来るといい」と差別を批判する社会になることを願った。

 今回の訴訟で250人が原告となった沖縄。関係者は「まだ多くの当事者がいる」と指摘する。徳田靖之弁護士も2次提訴の可能性に触れた。

 両親が元患者だったが、今回の訴訟に参加できなかった本島北部の男性(53)は判決に「当然の結果だ」と拳を握った。これまで差別を恐れ、隠れざるを得なかった元患者や家族たち。「家族の被害も認めた判決は立ち上がるきっかけになる」と、多くの当事者の後押しにつながることを期待した。
 (謝花史哲)