『奇跡の島~木曜島物語~』 “偶然の奇跡”がクロスする


社会
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『奇跡の島~木曜島物語~』飯島浩樹著 沖縄教販・1620円

 えっ?うそっ?こんなことってあるの? と思わず発してしまう不思議とも思える出会いや出来事を一度は経験したことがあるだろう。会いたいと思っていた人にバッタリ会えたり、連絡しようと思っていた人から連絡があったり、「たまたま見たデジタル時計の数字が11:11だったり…。これらは“偶然の一致”だろうか、それとも“奇跡の一致“なのだろうか。本書では著者自らが体験した“偶然の奇跡”をテーマに物語を展開していく。「人生で巡り会う人と人は、無意識にどこかでつながっている。人は巡り会うべき人を見出すために生きている」という著者の思いを登場人物に代弁させ、発信している。

 本書はフィクションだが、ベースになった奇跡の感動実話がある。時は、アメリカ統治下の沖縄にさかのぼる。洋服に付けるボタン用の真珠貝を採取するダイバーとして、オーストラリア北部に浮かぶ木曜島に渡った沖縄県民がいる。その中の一人、久米島出身の男性が現地の女性と愛し合い、女の子が誕生した。しかし、わが子が生まれる直前に突然の解雇命令が出されて強制的に国外退去。わが子と顔を合わせることなく沖縄に戻り、胸に秘めたまま誰に語ることなく日々を送っていた。

 一方、生まれて間もない娘は宣教師夫妻の養女となった。実母から実父の存在を聞いたのは20代。手掛かりがほとんどない中で実父に会える日を諦めなかった。その娘の強い思いこそが奇跡を呼んだ。56年の歳月を経て沖縄の地で実父と対面を果たした。

 実父探しにはフェイスブック(FB)が一役買った。思いをかなえたいと行動した先に、人が人を呼び、人がつながり、“偶然の奇跡”がクロスして願いがかなったのだ。

 著者を含めて実父探しに関わった人々は、無意識の中で出会うべくして出会い、つながった。

 著者がFBを目にしたその一瞬がなかったら、本書は存在しなかったと実感している。5千キロ離れた木曜島と沖縄を結んだ奇跡の物語だ。

 (中川廣江・琉球新報社通信員)

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 いいじま・ひろき 1965年山梨県生まれ。FCA・オーストラリア・南太平洋外国人記者協会会長。豪州かりゆし会会長、日本の民放局でディレクターなどを経て渡豪。

 

奇跡の島〜木曜島物語〜
飯島浩樹
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