7月上旬の朝、那覇市内のスーパー。2階建て駐車場の1階に運転席と助手席のドアと窓を開けた軽自動車が止まっていた。車内には高齢の男女2人の姿が。5分たっても10分たっても車が動く気配はない。運転席の男性に声を掛けた。
男性は数日前に誕生日を迎え78歳になったばかり。妻は1学年上で、もうすぐ79歳になる。耳が遠くなり、目もあまり見えないという妻。話がかみ合わないことも増えた。「認知症だろう」という。
元々、水道関係の仕事をしていたという男性。いまは妻の面倒を見なければならないため仕事はしていない。頼みの綱は2カ月に一度もらえる2人分の年金計約22万円。つまり1カ月に使える金額は約11万円だ。
厚生労働省が今月2日に公表した2018年国民生活基礎調査によると、公的年金・恩給を受給する高齢世帯の51・1%は、その他の収入がゼロ。依然として公的年金が高齢者の生活を支える大きな柱となっている。
一方で、今年6月3日の金融庁の審議会がまとめた報告書は、老後資金として公的年金以外に2千万円必要だと指摘している。政府は「年金制度は100年安心」というが、不安は高まり、今回の参院選でも大きな争点の一つになっている。
家には寝に帰るだけだという男性夫婦。1日3食全てをコンビニや牛丼チェーン店で済ますといい、車内のドアポケットにはコンビニでもらえるスプーンが大量にあった。
食費に加えてガソリン代は毎月2万円以上。光熱費など最低限のものを支払うとあっという間に年金はなくなる。5月には車のエンジンが故障して修理代に約7万円、数日前にもタイヤがパンクして約2万6千円と想定外の出費がかさんだ。ただ、幸いにも妻の親族が無償で家を貸してくれているため、家賃を考える必要がない。
「周りには年金をもらっていない人や家がない人だっている。俺らは恵まれている方さ」。公的年金制度の適用が遅れ、無年金者が多いといわれる沖縄の現状を心配する。
老後資金2千万円問題については「よく生きてあと10年。別にぜいたくをしたいわけではない」と冷ややかだが「これ以上、年金を減らすことだけは勘弁してほしい」と訴える。10月に予定される消費増税は打撃だが「正しく使われるのであれば」と納得している。
では選挙戦で候補者に何を望むのか―。「与党も野党も上っ面だけじゃなく、生活を守るための具体的な議論をしてほしい。そうじゃないと候補者を選べないさ」。穏やかな男性の声が大きくなった。
('19参院選取材班)
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参院選が4日、公示され、候補者は県内各地で政策を訴えている。生活や子育て、基地問題について有権者はどう思っているのか。「暮らしのいま」を歩いて回った。