勉強は嫌いだけど「高校に行きたい」 中卒就職希望者への求人ゼロの厳しい現実 3人に1人が貧困の沖縄の子どもたち 求められる地域一体の支援態勢 【暮らしは今 7・21参院選】②


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数学の宿題に励む少年。「最低でも高校には行かなければ」と語る=4日夕、浦添市

 参院選が公示された4日の夕方、浦添市勢理客の市立森の子児童センターの2階で机に向き合う少年がうめき声を上げた。のぞき込むと中学数学の平方根の問題を解いていた。少しいらついた様子の少年の横で、ボランティアの男性が「平方根は入試に必ず出るぞ。解けるようになれば確実に得点できる」と励ます。

 センターは週2回の夜間開放の日に合わせて主に中高生を対象にした学習と食事の支援を行っている。館長で指定管理者「一般社団法人まちづくりうらそえ」の代表理事、大城喜江子さん(64)がキーワードに上げたのは「自立」だ。

 同団体は市の委託を受けて2014年から施設の運営を行う。その年の秋、勉強が得意ではなかった中学3年生が「高校に行きたい」と話したことがきっかけで学習支援を始めた。「貧困の連鎖を断ち切るには、子どもに自分で生活する力を付けさせなければならない」と考えたからだ。

 16年1月に県が公表した子どもの貧困率は29・9%。およそ3人に1人の計算だ。全国平均の実に約2・2倍に上った。国は対策に力を入れ、16年度からは「沖縄子供の貧困緊急対策事業」を始めた。初年度は92カ所だった食事や学習の支援施設は18年度には144カ所に。県によると、助成を受けずに活動する団体を合わせると160カ所以上はあるという。

 森の子児童センターも初年度から補助を受けていたが、今年は断った。「予算がなくなったからやめます、ではだめだ」。内閣府は、21年度までの今期沖縄振興計画の期間中を「集中対策期間」と定めるが、国の補助率は本年度から9割に減額。「22年度以降も対策に力を入れる」とするが、次期振興計画がどうなるのかは見通せない。

 実際に補助を受けて支援活動を始めたが、現在は休止している団体もある。センターは市の委託金と地域からの寄付で運営しているといい「政策で施設を増やすことは大切だけど、地域社会が一体となる仕組みをつくらなければ続かないですよ」と語る。

 数学の問題に悪戦苦闘していた少年がこの日の宿題を終えて、取材に応じてくれた。「勉強は嫌い。でも最低でも高校に行かなきゃ仕事が見つからないって聞いたから」。19年3月卒業の県内の中卒就職希望者は30人に対して、県内の求人はゼロ。全国は希望者591人に対して求人1952人。中卒者の就職は全国よりもはるかに厳しいのが実態だ。

 少年は高校に入ったらアルバイトをするつもりだ。「高校生のいとこが8万円稼いでる。俺も稼いで、5万円は親に渡す。残りは将来のために貯金する」。表情にはあどけなさが残るが、芯は強い。

 少しそわそわしていた少年。取材を終えてお礼を言うと、階段を急いで下りていった。センターのプレイルームに駆け込むと、バスケットボールを楽しむ友人たちの輪に加わった。

('19参院選取材班)

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 参院選が4日、公示され、候補者は県内各地で政策を訴えている。生活や子育て、基地問題について有権者はどう思っているのか。「暮らしのいま」を歩いて回った。