[日曜の風]老後「2千万円」 泣き寝入りやめよう


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 「老後は年金だけじゃ暮らせない。夫婦で2千万円は必要」とした金融庁の報告書公表の衝撃は大きかった。その後、「本当はもっと必要」と言われ、「いったいいくら貯(た)めればいいのか」と私のまわりでも不安の声が高まっている。

 気の毒なのは若者だ。いま大学で教えている学生のほとんどは、アルバイトをして自分の生活費や学費の一部を稼いでいる。奨学金を借りている人も多く、卒業と同時にその返済が始まる。それだけでもたいへんなのに、すぐに毎月4万円は貯金に回さないと、とても退職時に2千万円もの貯蓄はできない計算だ。

 そして、そういった若者を狙って、いま詐欺まがいの投資ビジネスの勧誘が増えている。「賢く増やそう」と誘われてセミナーに行き、ギャンブル性の高い投資を始めてしまい、あっという間に借金を抱えた人に実際に会ったこともある。セミナーに泣きついても「自己責任」と言われたり、ひどい場合は連絡が取れなくなってしまったりもするらしい。

 これは誰が悪いのか。先日、世耕弘成経済産業大臣は講演で「日本の年金は世界一安心で安定したシステムだ。崩壊することはない」と話したそうだが、その一方で「実は数千万足りない」などという情報も発信し、国民を混乱させる政府にその責任があるのは明らかだ。

 それにもかかわらず、いまの若者たちはまじめでやさしく、他人を恨まずに自分を責めるので、「貯金ができない私が悪い」などと言う。国ははっきり言ってその善意につけ込んでいるとしか思えない。

 “お人よし”は長所だと思うが、そろそろ私たちは「誰も悪くない。私のせいだ」と泣き寝入りするのをやめてはどうだろう。そして、「なんとかしてよ。話が違うじゃないの」と怒りの声をあげる機会のひとつが選挙だ。間近に迫った参議院選挙、今回は特に若い世代にこそ投票所に足を運んでほしいと心から願っている。“脱・お人よし”を若者にすすめたい。

(香山リカ、精神科医・立教大教授)