【深掘り】「国交相の裁決は国の自作自演だ」 沖縄県が辺野古巡り国提訴 政府の反応は?


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福岡高裁那覇支部への提訴について記者会見する玉城デニー知事(右から2人目)ら=17日夕、那覇市の県庁

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡る県と政府の対立が、再び法廷闘争に持ち込まれた。玉城デニー知事は月内にも辺野古に関する別の訴訟も起こす構えで、沖縄の現状を訴える国内外での情報発信にも力を入れる。ただ提訴によって辺野古の工事が中断するわけではなく、裁判の行方についても政府内に深刻視する向きはない。21日には参院選が投開票されるが、政府は沖縄選挙区の結果に関係なく辺野古移設を進める方針だ。

■並行

 「国土交通大臣の裁決はあたかも選手と審判を同じ人物が兼ねているようなもので、まさしく自作自演、結論ありきで公正さに欠けていると言わざるを得ない」。17日午後、玉城知事は記者団にそう強調した。防衛省が工事を進めるために国土交通相という同じ内閣の身内に救済を申し立て、県の埋め立て承認撤回が取り消された手続きを改めて批判した。

 県は早ければ月内にも別の訴訟も提起する予定で、二つの裁判が並行して進むことになる。県議会6月定例会では補正予算案に訴訟費用として689万5千円が計上されたことを巡り、与野党が論戦を交わした。

 県政野党の自民は、翁長県政時の2015年の承認取り消しを巡る前回の裁判などで約1億5294万円かかった上に、最高裁で県が敗訴したことを引き合いに「予算の無駄遣いだ」などと批判。県民投票を批判した時と同じ論法で、費用対効果を疑問視した。

 一方、県は辺野古新基地建設には今後予定される軟弱地盤の改良工事などで少なくとも2兆5500億円の予算がかかると試算しており、県政与党は「最大の無駄遣いは辺野古新基地建設だ」と県を援護した。

 県関係者は今回の提訴について「軟弱地盤の問題が明らかになり、県民投票が実施され、前回の裁判から大きく状況は変わっている」と説明する。一方、今後の訴訟の行方には県庁内に慎重な見方もある。別の県関係者は前回の最高裁判決での敗訴を念頭に「県の主張に自信はあるが、裁判所がどう判断するかは別の話だ」と語った。

■工事続行

 辺野古の工事を巡っては埋め立て海域に広がる軟弱地盤で大規模な改良工事が計画されるが、政府はいまだに工期や事業費は明らかにしていない。地盤改良に関して、県に計画変更を申請するための設計業務の入札手続きを進める防衛省の関係者は「裁判は裁判、工事は工事でしっかり進める」と話す。

 参院選沖縄選挙区では再び辺野古新基地建設の是非が重要争点の一つとして選挙戦が繰り広げられているが、政府は結果にかかわらず、これまで通り工事を進める姿勢を隠さない。陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備に関する防衛省のずさんな対応が問題化した秋田選挙区の情勢に、政府・与党が神経をとがらせているのとは対照的だ。

 県は裁判に訴えることのみが解決に向かうと考えているわけではなく、提訴した17日には、軟弱地盤が自然環境に与える影響について懸念をまとめた文書を日本語と英訳で公表した。県幹部は「(国際社会に)発信する意味合いがある」と解説する。今後も法廷闘争と並行して政府への対話要求と国内外への発信、世論喚起を続ける構えだ。
 (明真南斗、當山幸都)