『飛んで行きたや 沖縄愛楽園より』 差別との闘い、郷愁つづる


社会
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『飛んで行きたや 沖縄愛楽園より』平得壯市著 コールサック社・1620円

 著者の平得壯市さんは、ハンセン病元患者で名護市の国立療養所「沖縄愛楽園」に入所している。1936年、与那国島に生まれる。13歳で発病し、51年に入園。中学1年を終えたころだ。多感な時期に、家族から引き裂かれての生活は、どれほどつらいものがあったのだろうか。現在、82歳。68年間の園での生活や社会への思いをつづった俳句・短歌集である。

 タイトルは、俳句の《羽あらば飛んで行きたや里の春》からであろう。春になっても帰ることのできない古里。羽があれば飛んで行って、せめて上空からそっとのぞきたい。

 作品には差別と偏見に苦悩し闘ってきた日々や故郷への郷愁。同じ入所者の妻との日常、強制堕胎から守り抜いた子どもたちへの思い。療友や自然への慈しみの情が見られる。印象に残る作品から幾つか紹介する。

 俳句

《ペン先に群がる煩悩年暮れる》《地球よりでっかく話す夏帽子》

《冬ざれや肩寄せ合って兵の墓》《娘より絶縁迫られ山笑う》《慰霊碑の供花に飛び交う夏の蝶》《予防法の歴史の怒濤鰯雲》

 短歌

《吾が病い必ず癒ゆると信じつゝ父は待ちおり十年経ちても》

《みにくくなりし子の現身(うつしみ)を知らずして逝きし母は幸せならんか》《子の親になれる日あると思わずに子の誕生に喜び隠せず》《子ありても供に暮らせぬ哀しみをこらえつつ妻は死出の旅へ行く》《夕暮れにねぐらに帰る島つばめ親子ならぶをじっと見つめる》《区切られし十万坪の療園に住みゆく一生哀しむなかれ》

 平得さんは独学で日記を書くように、作品を書いたという。作品を書き込んだ大学ノートの表紙に短歌は54年、俳句は61年と記されているという。「あとがき」で「本書は、私の生きた証である。今は亡き妻や、家族や多くの仲間、友人たちへ感謝を捧げるつもりで出版を思い立った。」と思いを述べる。「解説」は、詩人で作家、研究者の大城貞俊さんによる。

 (おおしろ建・俳人)

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 ひらえ・そういち 1936年与那国島生まれ。51年にハンセン病療養施設「沖縄愛楽園」に入所し、家族と離れた生活を余儀なくされる。短歌は54年、俳句は61年から始めた。

 

飛んで行きたや 沖縄愛楽園より
平得 壯市
コールサック社 (2019-06-18)
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