『没後も社会貢献』 地球国家を目指して


社会
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『没後も社会貢献』岸本正之著 文芸社・1836円

 本書は著者の自伝的な大著「私たちは小さな水の星に生きている」に続き出版された姉妹編である。そのサブタイトル「高等教育エンダウメント文化の導入&教育への投資で世界を改造」からも分かるように、地球国家と地球政府を志向している。未来を展望するユートピア思想が一貫している。その課題をいかに解決して実現するか。それがメーン・テーマとなっている。

 著者がこの問題を提起するようになった動機は、彼の故郷沖縄での体験、アメリカ留学(大学院高等教育専攻)の体験、また世界の国々を旅し、見聞を広め、かつ高い見識を身に付けたからであろう。

 それもさることながら、著者の深い洞察力と広く深い学識に圧倒されてしまう。まるで世界または人類の文明論を読んでいるみたいだ。彼はまれな「アメリカの夢」の体現者である。

 人類8千年の興亡盛衰の歴史に照らして展開される論の帰結は、「多」を「一」に統合することである。すなわち「地球人の、地球人による、地球人のための政治」の樹立によって未来永劫戦争の起きない共存共栄の地球国が誕生する、と語る。現行の国連、現在の欧州共同体や米国大統領の「アメリカ・ファースト宣言」を厳しく批判する。

 人類の連邦政府を主張するフランス革命の思想家グレグァとは異なり、著者は大学こそその推進力となるべきだと主張する。大学の重大な使命は「グローバル社会での指導的役割を以て、グルーバル社会へ貢献できる人材を育てること」であると断言する。それを推進し実現するために、自ら実践してやまない没後も社会貢献できる「ユニヴァーシティー・エンダウメント・ファンド(同窓会の母校遺贈基金)」運動を啓蒙的に展開しなければならないと説く。

 本書の文体については、各段落が論理的に展開され、豊富な資料や事例を駆使しながら、メーン・テーマを理路整然と解説している。高等教育関係者のみならず、地球市民としての大学の卒業生や一般の人々にも推薦したい。(瀬名波榮喜・名桜大学名誉学長)

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 きしもと・まさゆき 1934年生まれ。琉球大学英文科卒業後、メリーランド大学大学院で修士号を取得。日本航空に25年間勤務した。2007年に岸本ファミリー・個人慈善事業(KFF)を創立した。

 

没後も社会貢献 高等教育エンダウメント文化の導入&教育への投資で世界を改造
岸本 正之
文芸社 (2019-04-01)
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