『沖縄と核』圧倒的な当事者証言の重み


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『沖縄と核』松岡哲平著 新潮社・1944円

 NHKスペシャル『スクープドキュメント 沖縄と核』(2017年9月10日放送)を見終わった時の衝撃は今も忘れられない。何しろ内容がスクープの連続で、NHK夜7時のニュースのトップを1週間にわたって飾れるような新事実が満載だった(もっとも今のNHKは忖度(そんたく)して控えるだろうが)。本書では∧核兵器を扱っていた経験を持つ13人の元海兵隊員から話を聞くことができた∨とさらりと書いているが、このこと自体並大抵のことではない。当事者証言の重みが伝わってくる。さらには米国立公文書館ばかりか、アラバマ州マクスウェル空軍基地の資料庫や、個人所蔵の文書・写真まで新資料の探索への努力が尋常ではない。

 1959年6月19日に那覇飛行場に隣接する基地から核弾頭が搭載されたナイキ・ハーキュリー・ミサイルが誤射され那覇沖の海中に突っ込んでいた事実。61年に恩納村に攻撃型核ミサイル、メースBが配備された際の基地内の発射制御卓の写真(元兵士個人の撮影・保管物)。その写真から沖縄の核が中国の複数の都市に向けて「HOT」つまり、命令があれば即時発射の状態になっていた事実。61年10月のキューバ危機の際に、嘉手納基地から核兵器の一部を韓国クンサン米軍基地に運んだ事実。沖縄の本土復帰に際し「核抜き本土並み」返還と日本政府が言う裏で、実は沖縄への核再持ち込みの密約が交わされていた事実、レアード元国防長官が「私たちが(米国が)、核兵器についての拒否権を日本に与えることはないんだよ」という生前最後の電話インタビューでの本音証言、などなど枚挙にいとまがない。伊江島での模擬核爆弾の投下訓練の下で死んでいった島民の事件を記した部分は、真藤順丈の直木賞小説『宝島』の世界に重なっている。

 最後に少々触れておくが、評者も松岡氏と同じく米公文書を探索し沖縄の歴史の真実を求める人間の一人として思うのだが、リサーチャーの存在が仕事の成否を決定するほど重要だということだ。2人のリサーチャーの仕事ぶりに敬意を表す。

 (金平茂紀・ジャーナリスト)

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 まつおか・てっぺい 1980年大阪府生まれ。2006年にNHKにディレクターとして入局後、15年より沖縄放送局勤務。主な番組にNHKスペシャル「日航ジャンボ機事故、空白の16時間」など。

 

沖縄と核
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