〈重荷を負うて道を行く 翁長雄志の軌跡〉37 第6部 市長再選 硫黄島案、議会で利点強調


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硫黄島で開かれた日米合同の慰霊祭=2006年3月

 「中間報告は8回裏で発表されてしまった。誰がそれに参加したか」。那覇市長の翁長雄志は2006年2月、市議会定例会で米軍再編中間報告についてこう述べた。雄志が発表した米軍普天間飛行場の硫黄島移設案に関連し、多くの市議から質問が相次いでいた。

 日米両政府が県民の頭越しに進めた再編協議を、雄志は野球の試合に例えて批判した。「お互いサインが見え見え。こんな(八百長の)試合がおもしろいはずがない。コールドゲームは避けたが、終わってみればワンサイドゲームという形で物事が進んでいるのではないか」

 知事や国会議員らは意見を表明する機会があったものの、県内市町村長は「8回まで参加できなかった」と指摘した。「9回裏1アウト、2アウトという設定であるのなら、そこに硫黄島(移設案)をもってきて、何とかバントかヒットで逆転勝ちをしたい」と述べると、議場から拍手が湧いた。

 雄志は05年12月に硫黄島を視察した際の状況を「自衛隊のF15が島を旋回するかのように、何回もタッチ・アンド・ゴーを繰り返していた」などと説明した上で、米軍のリスク分散の観点からも硫黄島案の利点を強調した。

 太平洋に展開する米原子力潜水艦に搭載された核弾頭が「広島、長崎の原子爆弾の数千倍の威力を持つ」と指摘し「他の大国も(核ミサイルを)持っているのではないか。これまで沖縄は要石と聞いてきたが、軍事技術の進展に伴い、近すぎる」と強調した。「硫黄島あるいはグアム、サイパン、フィリピン、オーストラリアと、飛び石いわゆるリスクの分散が可能だ」と答弁した。

 さらに沖縄の過重な基地負担だけでなく、国内の他の米軍基地を抱える自治体の負担についても市議会で語った。米軍再編で米海兵隊の空中給油機の訓練移転先とされた鹿屋市、厚木基地から米軍機の夜間離着陸訓練(NLP)が移転される岩国市を訪ねた経緯を報告した。沖縄の基地負担軽減について両市に理解を求めた際のやり取りを「(日本の面積の)0・6%の沖縄が、75%も基地(米軍専用施設)を持っている。本土に等しく負担をしてもらいたいと話したら、鹿屋市と岩国市は『他の都道府県が受けるべきだ。私たちはいっぱいいっぱいです』という話をされる」と振り返った。

 その上で「硫黄島の活用いかんでは、中間報告で取り沙汰された他の移設予定地の負担のあり方にも変化をもたらす」「日米両政府が真剣に取り組めば、実現可能性は決して低くないと確信している」と述べている。

 (敬称略)

 (宮城隆尋)