『資料集 石川・宮森の惨劇』 事件の核心に迫る資料


社会
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『資料集 石川・宮森の惨劇 米国公文書館文書に見るジェット機墜落事件』NPO法人石川・宮森630会編 NPO法人石川・宮森630会 2000円

 子どもたちが本来安心して過ごすことができるはずの小学校を中心的現場として17人もの死者と210人もの負傷者を出した、石川・宮森小学校米軍ジェット機墜落事件(1959年6月30日)から今年で60年である。本書は、米公文書館所蔵のUSCAR(琉球列島米国民政府)文書のうち、NPO法人石川・宮森630会が入手した、本事件に関わる膨大な資料群の翻訳である。本書には事故機の緊迫した交信記録、事故後の惨状、米軍による事故後の処理、被害者の状況や米軍による治療、補償問題等、同事件の核心に迫る資料が収められている。

 本書における米軍と琉球側との見舞金交渉の過程は、非常に生々しい。大規模な事故、機体の整備不良のために引き起こしたにも関わらず、被害者側との補償交渉の過程における米軍側の関心事が、反米感情を抑え、米軍に不利な政治的影響を起こさずに賠償額を被害者に受け入れさせる点にあったことを、読み取ることができる。また、事故によって負傷し、外貌(がいぼう)が変化したことに苦しむ被害者たちに対する治療が、米軍側にとっては治療されないままでいると、本事故を常に思い出させる症例となり、反米感情を引き起こし、長期にわたって統治の懸念材料になる「最悪な生きた手本」だとされている。表向きは真摯(しんし)に見える米軍側の対応が、結局のところ事故の反省や被害者へ寄り添うことではなく、いかに米軍に有利に事態を収束させるかに関心が注がれていることが分かる。

 そして、本書の中では随所に米軍側の琉球人に対する敵視やさげすみが表れており、現代にも続く、米軍の事件や事故の背景に、沖縄の人間に対する蔑視があるのではないかと考えさせられる。

 本書に収められた資料は本事件発生から60年がたっても、危険な空の下で生きる私たちに本事件の事実を伝え、事件の風化を防ぐとともに基地あるがゆえの危険を再認識させる。今後の沖縄の歴史の中に二度と再び同じことを起こさせてはならないと決意させる一冊である。

 (高良沙哉・沖縄大学人文学部教授)

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 NPO法人石川・宮森630会 石川・宮森小学校米軍ジェット機墜落事件から50周年を機に「後世に語り継いでいこう」と設立された。同事件に関する証言集や資料集を発行する取り組みなどを続けている。

※注:惨劇の「惨」は旧字体
※注:高良沙哉教授の「高」は旧字体