芸能・文化

『国境の医療者』 難民の命支える情熱

『国境の医療者』メータオ・クリニック支援の会編 新泉社・1620円

 本書は、2008年に小林潤氏(現・琉球大学医学部教授)が代表となって設立された「メータオ・クリニック支援の会」(JAM「Japan Association for Mae Tao Clinic」)というNGO(13年にNPO法人)からメータオ・クリニックに派遣された7人の派遣員の活動の記録である。リレーエッセイ形式でまとめられた「ノンフィクション作品」となっている。

 メータオ・クリニックの第3代派遣員(前川由佳氏/看護師・保健師)は、沖縄県立看護大学(評者の前勤務先)の卒業生である。本書を読んで教え子の活躍と成長に深く感動した。

 前川氏はクリニックの感染対策と新築移転に大きく貢献した。感染対策では、外科用のハサミやメスなどの道具と滅菌物の取り扱いが気になっていたので、自ら滅菌セットを試作し、スタッフの意見も取り入れて完成品を作った。この経験から現地のスタッフとの信頼関係を築き、ともに考えることの大切さを実感したようだ。遺体安置所の扉が壊れて、犬に荒らされる事件が発生した。前川氏は遺体保管庫のデザインおよび予算を組みたて、現地の冷蔵業者に発注し整備させた。「知らない、やったことがないからできない、という判断ではなく、どうやったらできるかをまず模索してみることが大切で…。こういう挑戦とやり遂げた達成感が何よりの楽しみだったりする」と述べている。

 タイの日本大使館と日本財団に働き掛けてクリニックの移転新築に1千万円の支援を得ることができた。この資金を得るには、申請書を大使館に提出し、1次、2次の審査にパスする必要があった。13年8月に日本大使館で締結式が行われた。前川氏にとって、これが派遣の最後の仕事となった。医療資源の乏しい異国の地において現地の人々に寄り添い、人々の役に立ちたいという熱意と情熱をもって、難民の健康や命を支えようと奮闘した派遣員たちの活動は、読者に大きな感動と夢を与えるであろう。

 (新城正紀・沖縄大学健康栄養学部教授)

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 メータオ・クリニック支援の会 メータオ・クリニックはタイとミャンマーの国境に位置し、ミャンマーの政治的混乱でタイ側に避難した難民の医療を担う無償診療所。支援の会は日本の医療関係者が同クリニックの日本の支援窓口として設立した。

国境の医療者
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