本部町備瀬の住宅密集地に、表札のない民家が点在する。「うちの隣も、向こうの家も、みんな『民泊』です」。住宅地に住む女性は険しい表情で周囲を見渡した。民家にはアジアを中心に外国人客が泊まりに来ることが多いという。深夜まで騒音が響いたり、自宅の塀にレンタカーをぶつけられたりと、トラブルは絶えない。女性は「住民にとって民泊は迷惑なだけ。百害あって一利なし」と切り捨てた。
人気観光施設の沖縄美ら海水族館が位置する本部町では、民泊を含む宿泊施設がここ数年で目立つようになった。ホテルや旅館のように看板を掲げた従来の宿泊施設と違い、一般住宅やアパート、マンションの空き室を利用した民泊は比較的手軽に始められ、その存在も分かりにくい。小さな集落や住宅地の中での増加に伴って騒音や交通マナー違反、ごみ出しのトラブルなど地域住民とのもめ事も表出する。地元観光関係者によると多くが町外や県外の業者といい、「看板を掲げていない施設も多い。オーナーもいないので実態が分かりにくい」と頭を抱えた。
リゾート地として人気が高い恩納村でも民泊は多く立地する。同村山田区の比嘉茂区長は「住宅地の真ん中に最近、新しく民泊の住宅ができた」と、戸建ての新築住宅を指さした。自治会に事業を始めるという連絡はなく、オーナーは不在で、どのような人が泊まっているか不明という。外国人が出入りする様子も見受けられ「治安が悪化しないか不安だ」と懸念する。
ただ、区内には地域に溶け込み、ルールを守りながら運営する民泊もある。比嘉区長は「民泊をやるのなら地域との関わりを深めてほしい」と願う。
住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく県内の民泊届け出は、1105件(8月15日時点)で東京や大阪、北海道に次いで高い数字となっている。
沖縄観光総研の宮島潤一代表は「観光客の増加が住民生活に影響し、県内でもオーバーツーリズムの状況になりかねない」と指摘する。観光客の急増で、交通渋滞やモノレール車内の混雑といった県民生活への影響が既に顕在化している。宮島氏は「県民が『観光客が来ることは有害だ』と思う事態だけは避けなければいけない」と警鐘を鳴らす。
(「熱島・沖縄経済」取材班・平安太一)
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好調な県経済をリードする沖縄観光は入域客数1千万人を超えることが想定される一方で、住民生活との間でひずみも生じつつある。「熱島 沖縄経済」の第2部は、観光業の躍進に伴う課題に焦点を当てる。
<用語>オーバーツーリズム
地域が許容できる範囲以上に観光客が押し寄せ、住民生活にさまざまな弊害をもたらす状況。海外ではスペインのバルセロナ、イタリアのベネチアなどで起きているといわれており、観光客と住民の摩擦などが社会問題化している。