〈15〉心臓血管外科 手術のスペシャリスト


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 幅広い疾患に対応できる「ジェネラリスト」を育てるべく、臨床研修制度が必修化されてから15年余りとなりますが、心臓血管外科はなお“とがった”診療科であり、専門家として扱う病気の種類は多くありません。私が専門にする成人心臓外科に限れば、主なものは「冠動脈疾患」「弁膜症」「大動脈瘤(りゅう)・解離」「足の血管トラブル」と片手で数えられてしまいます。

 一般に、風邪をひいたら内科、おなかが痛ければ胃腸科や外科、けがをしたら整形外科を受診するでしょう。しかし、胸が痛い、息苦しいからと言って、患者さんが「心臓の手術をしてほしい」と心臓外科の外来を受診することはありません。

 多くの場合、内科医が検査をして診断をつけ、内服薬やカテーテル治療を検討した上で、手術をした方が良い結果が出ると判断したときに初めて、心臓外科医の出番になるのです。

 心臓手術の特徴はその結果が比較的「早く」「目に見えて」出ることです。手術が的確に行われることで、術前の息苦しさがうそのようによくなり、リハビリを始める方がいます。全身がむくんで歩くのがやっとだった患者さんが、ジャンプしながら退院することさえある、と言っても大げさではありません。

 とはいえそれは心臓外科医だけの手柄ではないのです。麻酔科医や看護師、リハビリスタッフ、臨床工学技師といった多くの専門職が結集したチーム医療によって、ようやく1人の患者さんの手術が成立します。

 心臓手術を勧められた患者さんは不安と闘い、勇気をしぼって、外来の扉を開きます。心臓外科医が扱う疾患の種類や対象となる患者さんは多くありませんが、その分、そうした患者さんや紹介元の医師の期待に応える「スペシャリスト」として、結果を出すことが常に求められます。

 患者さん方が術後元気になり、家庭や地域でそれぞれ活躍してくださることが、沖縄を少しずつ明るくしているのだと想像して、私は日々の診療に当たっています。
(平沼進、大浜第一病院 心臓血管外科)