【記者解説】人権救済、一審より後退 判決から見える司法の姿とは


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 第3次嘉手納爆音差し止め訴訟の控訴審判決は、那覇地裁沖縄支部の一審判決から後退する内容となった。損害賠償額を約3割減額したが判決文に理由は記されておらず、一審では認められた一部健康被害を認めなかったことが減額理由と推測できる。しかし、一部健康被害を認めた一審判決を改めた理由も記されていない。主文のみを言い残して退廷した裁判官の姿と同様に、原告が置かれた現状を直視しているとは思えない司法の姿が判決から垣間見える。

 原告は「静かな空」を望み、夜間・早朝の米軍機の飛行差し止めを求めた。司法は騒音被害を「除去、是正することができる者を相手方とすべきである」として、その立場にない日本政府に差し止め請求はできないと判断した。

 一方で、米軍基地を運用する米国を相手に飛行差し止めを求めて提起した「対米訴訟」では「わが国の民事裁判権は及んでいない」として、請求を却下した一審の判決を支持した。

 国相手の訴訟では、一審判決で「アメリカまたは国がより抜本的な被害防止策を講じずに、その被害を漫然と放置している」と指摘した文言を削除した。

 新たに加わった文言では米軍機の訓練が「わが国の安全保障全般に直接影響し、国の存立の危機に極めて重大な関係を持つ事柄」と指摘している。

 これまでの訴訟でも米軍機の騒音が受忍限度を超える違法な侵害と認められている。控訴審判決は飛行差し止めという違法状態を解消する道筋を絶ち、原告の人権救済を放棄した判決となった。
 (安富智希)