騒音による健康影響に関して今回の判決も、高血圧症などの発症リスクが高まることを認めている。ただ、一審判決とは異なり、発症への不安感には個人差が著しく大きいと考えられることから、原告が言う「共通被害」としては低く見積もった。科学的には妥当な判断だ。
一方で、そもそも睡眠妨害そのものが健康影響であることついて判決は一切言及していない。睡眠妨害により日中の活動に影響が出れば、それは短期の健康影響で、慢性的になれば睡眠障害という疾患と診断される。静かな夜を願うならば、弁護団はこの点に最も力を入れるべきだったのではないか。
世界保健機関(WHO)のガイドラインなど科学的知見に照らせば、嘉手納基地は高血圧症や虚血性心疾患などの健康被害を及ぼす施設で、飛行差し止めを命じるべきだ。「第三者行為論」で差し止めを認めないのは「国民の健康よりも米軍優先」と言っているのと同じだ。国と司法を戦後容認し続けてきた国民も加害者だ。
(松井利仁氏、北海道大教授 環境衛生学)