『沖縄戦の発掘 沖縄陸軍病院南風原壕群』 「場所」「モノ」で紡ぐ戦争記憶


社会
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『沖縄戦の発掘 沖縄陸軍病院南風原壕群』池田榮史著 新泉社・1728円

 沖縄戦の実相に触れるため、私はひめゆり学徒隊の足跡をしばしばたどる。南風原町が1990年、全国で初めて戦争遺跡を文化財指定した沖縄陸軍病院南風原壕(ごう)群では、222人のひめゆり学徒たちが18人の教師に引率され、看護活動に従事した。

 本書は、この戦争遺跡での惨禍に戦跡考古学という切り口で迫る。発掘資料を仲立ちに、沖縄戦の記憶を紡いだ記録である。

 これらの資料は、人間の発する言葉の証言とは異なる。無言の「場所」であり、「モノ」である。著者が学生と調査・作業を始めたとき(94年~2006年まで)、半世紀近くの時間の経過の中で、壕の大半は落盤、崩落し、一帯は自然林に戻っていた。死の淵での絶望感、戦争への憤怒、慚愧(ざんき)の念。死者の無念と生き残った人びとのさまざまな想いを飲み込んだ壕群は、草木に深く埋り、物言わぬ存在であり続けた。その分、向き合う側の時空を超えた想像力が試される。「戦は二度と起こさない」と決意すれば、その覚悟の質が問われもする。

 カラー写真と地図がふんだんに配された93頁の本書には、こうした「重い」表現は見当たらない。だが、透徹した観察眼が作業中の学生の心情を写し出す。例えば、現在は復元され、壕群の中で唯一公開されている「20号壕」で。学生は、焼け焦げた天井や壁面からの崩落土に混じった薬のガラス瓶やアンプル剤の破片、ピンセットや注射器などの医療器具を確認しているうちに無口になり、集まって作業をするようになる。「暗い壕内で、沖縄戦の現実を発掘しているという緊張感と、感じる怖さが学生たちに一カ所に集まる行動を取らせる。そのたびに割りふられた調査区での作業を指示しながらも、その心情が十分に理解できたことは言うまでもない」。

 ビジュアルな本書は、過剰な主観や情緒を排している。その筆致がかえって説得力を持つ。ガイドブックとしても活用できる。

 (藤原健・本紙客員編集委員)

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 いけだ・よしふみ 1955年、熊本県天草市生まれ。琉球大学国際地域創造学部教授。主な著書に「海底に眠る蒙古襲来-水中考古学の挑戦-」「ぶらりあるき沖縄・奄美の博物館」など。