『沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ』 理不尽さを洗い上げる


社会
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『沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ』吉浜忍、林博史、吉川由紀編 吉川弘文館・2592円

 沖縄戦で「視覚障がい者」や「聴覚障がい者」そして「肢体不自由者」たちが、いかに大変な逃避行を強いられたか、これまであまり知られていなかったのではないかと思う。少なくとも私は知らなかったし、「障がい者」たちが、いかにして自分の置かれている過酷な状況を認識し、対応したかといったことについて、ほとんど無知に等しかった。「障がい者」の項を読んで、沖縄戦について新たに学びなおす必要があることを思い知らされた。そしてそれは、「障がい者」の件だけでなく、「行政と警察」や「米軍にとっての沖縄戦」その他に関しても通り一遍の知識しかなかっただけに、それぞれ目を開かせてくれるものがあった。

 沖縄戦に関する出来事は47の項目、20のコラムでほぼ尽くされているかと思うが、あと幾つかあってほしかったのがないわけではない。例えば「遺書や手紙」であったり、刑務所や測候所の動向であったり、遺骨の鑑定に関してであったりといったことである。そのようなないものねだりはともかく、これだけの項目を取り上げることができたのは、他でもなく、沖縄戦研究が深まったことの証左だが、なによりも注目すべきは、それぞれの項目を担当したのが若い世代であるということである。

 沖縄戦研究を時代別で見ていけば、間違いなく新しい世代に入ったことを感じさせるものがある。それは「証言」の時代から、「説明」の時代に入ったことと対応しているに違いないが、戦争体験のない若い世代のものたちがなぜ、沖縄戦に取り組んでいるのだろうか。

 それは項目の1、2およびその他幾つかの項を読めば分かることだが、貫流している一点は、戦中・戦後の沖縄を覆いつくしている理不尽さを、洗い上げたいといったことにあるかと思う。それにしてもと思う。「今も不明」「不明な点も多い」「詳細は不明な部隊」といったのやそれに類する表現が散見することである。不明と書くのは、研究者として身を切られる思いがするに違いないが、それこそが、まさに戦争なのだと。

 (仲程昌徳・琉球大学元教員)

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 非体験世代の沖縄戦研究 2004年に戦後生まれの沖縄戦研究者らで発足したのが「沖縄戦若手研究会」(通称・若手研)。本書は若手研メンバーが最新の研究成果を反映させて執筆。執筆者は28人。吉浜忍、林博史、吉川由紀が編者として共同で編集作業を行った。

沖縄戦を知る事典
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