那覇市出身の俳優・津嘉山正種の朗読劇「津嘉山正種ひとり語り『沖縄の魂』―瀬長亀次郎物語」(劇団青年座・沖縄タイムス社主催、琉球放送共催)が14~16日、那覇市のタイムスホールであった。米軍占領下の沖縄で、沖縄住民のために尽力した不屈の政治家・瀬長亀次郎の半生と、沖縄の苦悩を迫真の朗読で伝えた。最終日の16日を取材した。原案は謝名元慶福、構成台本は津嘉山、演出は菊地一浩が務めた。
ろうそく2本が照らす明かりの中で、津嘉山は味のある低音の野太い声で語り始めた。物語は沖縄に住む一人の老人と孫の会話をベースに進む。老人が高校時代、亀次郎の「追っかけ」をしていたことから朗読は始まった。孫は「亀次郎って誰?」と問うと、老人は亀次郎のエピソードを話し始めた。
亀次郎が琉球政府創立式典で立法院議員全員が脱帽し、直立不動する中、星条旗の下での宣誓を拒否して座ったことや刑務所から出獄した時、多くの市民が歓迎したことを語った。津嘉山は言葉一つ一つに強弱を付けながら“亀次郎エピソード”を伝えて時折観客の笑いを誘った。
語りは米兵による女性暴行事件へと進む。津嘉山は上演前のインタビューで「数え切れないくらい起きた米兵による女性暴行事件を朗読の中に入れたかった」と語った。老人は暴行された女性の年齢、事件の概要、暴行した米兵が無罪だったことを伝える。津嘉山は「おじいちゃんもう辞めて!」と泣き叫ぶ孫と、こわばった顔で伝え続ける老人を力強く演じ、事件の悲惨さを印象付け、観客も涙をこぼした。
亀次郎の名演説のシーンでは声を大にしてダイナミックに語った。「沖縄70万県民が声をそろえて叫んだならば、太平洋の荒波を超えてワシントン政府を動かすことができます!」。津嘉山は眉間にしわを寄せながら拳を掲げて力強く訴える。壁にうつる津嘉山のシルエットは演説台に立つ亀次郎のように見えた。
佐藤栄作首相との国会論戦の場面では「この沖縄の大地は、再び戦場となることを拒否する!」と命(ぬち)かじり県民のために訴える亀次郎を、津嘉山は声を張り上げながら熱を込めて訴えた。
最後、老人と孫が会話している途中にいきなりオスプレイのごう音で遮り、観客を驚かせる。亀次郎が目指した基地のない沖縄が達成できていない現実を思い知らせた。
津嘉山は繊細な言葉の抑揚とうちなーぐちで民衆に寄り添う亀次郎を最後まで演じきり、客席から今にも「したいひゃー亀次郎!」と聞こえてきそうなくらい観客を引き込んだ。終幕後、会場では割れんばかりの大きな拍手が湧き、津嘉山は感極まった面持ちで客席を見渡し、一礼した。
(金城実倫)