「売れなくなる、値上げ無理」価格転嫁に小規模店苦悩 対策経費負担のしかかり板挟み 消費税10%の波紋


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 1日午前0時に、消費税率が8%から10%に引き上げられた。前回2014年以来5年半ぶりの増税。飲食料品や定期購読の新聞などを対象とした軽減税率制度の開始や、キャッシュレス決済で最大5%が還元される事業など新たな対策も始まる。県内企業も値段を設定するなど準備を整えた。一方で中小企業からは「負担が増えて苦しくなる」と悲鳴が上がる。

「消費増税がなければもう少し続けられたかもしれない」と閉店を悔やむゲームインナハ2の田場哲夫元店長=9月29日、那覇市松尾

 「増税がなければもう少し続けられたかもしれない。残念だ」

 9月26日に閉店した那覇市松尾のゲームセンター「ゲームインナハ2」元店長の田場哲夫さん(62)は、後片付けの進む店内で無念そうにつぶやいた。1993年の開店以来多くの常連客に愛されてきたが、来店客数の減少に加えて消費増税による経費の増加を見据え、オーナーが9月末での閉店を決めたという。

 同店では、開店以来ゲームの多くを1回50円で楽しめるようにしてきた。一方で月に40~50万円程度かかる電気代や、客が1ゲーム遊ぶごとにメーカーに支払うネットワーク利用料が10月以降は増税により値上がりし、経営を圧迫することが予想されたという。田場さんは「50円のゲームを100円にしたらお客さんは離れてしまう。値上げは難しい」と話す。

 政府は増税分を価格に適正転嫁するように求めるが、中小企業や個人店舗にとって、価格の上乗せは容易ではない。サンライズなは商店街にある衣料品店の洲鎌良子店長(75)は「地元の人が少なく、安くしても売れないのに値上げなんてとても無理だ」と話す。店先では客を集めるために500円の安値でズボンを販売しているが、仕入れ値は370円程度で利益は薄い。「(増税で)仕入れ値は上がるけれど、価格を上げるわけにはいかない。これじゃあ袋代も出せないよ」とため息をついた。

 軽減税率やキャッシュレス還元という目新しい制度の陰に隠れた形になってしまっているが、増税分を価格に反映できるか苦悩している事業者は多い。那覇商工会議所は増税に向けて、軽減税率制度の内容や価格転嫁の必要性などの指導を4月から9月中旬までに約1700件実施してきた。個人経営の店舗などからは、価格についての相談も多いという。

 中小企業相談部の小嶺若菜さんは「特に小さい店では、顧客が離れることを懸念して価格を据え置くという店が半分ほどを占める。まずは自分の店舗の資金繰りをしっかり把握して、入金を早めるなど対策が必要だ」と警鐘を鳴らした。

 売り上げ低下を恐れて販売価格を据え置くと、利益が削られるのに加え、仕入れと経費に増税分の負担がのしかかり、特に零細企業では資金繰りが行き詰まる危険性がある。しかし価格上昇には客離れの危険性も伴う。

 那覇市内の飲食店の店長は、クレジットカード決済を導入して手数料負担が生じたこともあり、増税分の値上げを考えているとしながら「お客さんがこれまでと同じように来てくれるのか。売り上げまで落ちたら目も当てられない」と不安を吐露した。
 (沖田有吾)