有料

海保機、なぜ滑走路に 羽田衝突炎上 認識違いゼロ難しく 勘違い 特効薬なし 捜査と調査


海保機、なぜ滑走路に 羽田衝突炎上 認識違いゼロ難しく 勘違い 特効薬なし 捜査と調査 事故状況のイメージ
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 羽田空港の滑走路で日航機と海上保安庁の航空機が衝突した事故は、国土交通省が3日、空港の管制と両機の交信記録を公表し、海保機が停止位置での待機を指示されながら、滑走路に進入していたことが明らかになった。専門家は「能登半島地震の被災地支援の任務に就いていた海保機に焦りがあったのでは」と指摘する。管制が絡む重大事故やトラブルは過去にもたびたび起きており、管制の対応に問題がなかったかどうかも原因究明のポイントとなる。 (1面に関連)
 管制「こんばんは。1番目。C5(誘導路)上の滑走路停止位置まで地上走行してください」
 海保機「滑走路停止位置C5に向かいます。1番目。ありがとう」
 国交省が公開した交信記録からは、海保機が停止位置に向かうと復唱した様子が読み取れる。
 日航は事故から約8時間後の3日未明、乗務員への聞き取り結果として「管制からの着陸許可を認識し、復唱した後、進入・着陸操作を実施した」と発表した。
 一方の海保は3日夜、機長が管制の許可を得た上で「滑走路に進入した」と述べたと説明。海保機の機長が、管制の許可を得たと“勘違い”して滑走路に進入した可能性が浮上している。
 離着陸するジェット機は時速200キロ超で走行するため、滑走路には1機しか入れないのが管制の原則だ。ただ、通話によるやりとりでは、指示が伝わらなかったことによる事故やトラブルをゼロにはできない。
 1977年3月、大西洋のカナリア諸島テネリフェ島の空港でジャンボ機同士が衝突し、583人が死亡する航空史上最悪の事故が起きた。管制官からの指示が無線の混信で正確に伝わらず、機長は離陸許可が下りたと勘違いしたのが直接の原因とされている。
 国内でも、滑走路への誤進入トラブルは毎年複数回発生。2007年9~11月には大阪、関西、中部の各空港で相次ぎ起きた。国交省は対策検討会議を立ち上げて議論。着陸機が接近中の滑走路に別の航空機が入った場合、管制官の使う表示装置に注意喚起の表示を出すなどハード面の対策も進めるが、特効薬はないのが実情だ。
 事故原因の究明は国の運輸安全委員会による調査と、警察による捜査が並行して進む。担当するのは殺人や強盗などの強行犯を扱う警視庁捜査1課。業務上過失事件などを担う特殊犯捜査係があるが、専門性の高い航空事故捜査の経験が豊富な捜査員は多くはない。
 近年では15年に小型プロペラ機が東京都調布市の住宅街に墜落し、機長や現場の住人らが亡くなった事故を捜査したが、複数の航空機が衝突する事故は異例だ。警視庁幹部は「時間はかかると思うが、真相解明に努める」と話す。
 航空評論家の青木謙知さんは「仮に海保の機長が管制官の指示を取り違えて滑走路に誤進入したとしても、管制官が気付いて日航機に着陸やり直しを指示すれば事故は避けられた。管制塔は高い位置にあり、事故のあった滑走路は見通しもいい。夜で暗かったことを差し引いても、照明で把握できるし、しなくてはならない」と指摘する。
 海保機は事前に立てた飛行計画よりも出発が遅れており、別の専門家は「大事な使命を帯びていたので、早く離陸しなくてはいけないという思いが勘違いを生んだ可能性もある。背景要因を含めた調査が必要だ」と分析している。