知床事故 最終報告書 船会社 安全管理が欠如 国の監査、実効性に問題も


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海面上までつり上げられた観光船「KAZU Ⅰ」=2022年5月、北海道斜里町沖
 北海道・知床半島沖の観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」沈没事故で、運輸安全委員会は7日、最終的な調査報告書を公表した。船首付近のハッチが確実に閉鎖されないまま出航し、悪天候でふたが開いて浸水したことが原因で、運航会社の安全管理体制の欠如が重大な影響を与えたと指摘。国や関係機関の監査・検査の実効性にも問題があったとした。
 20人が死亡、6人が行方不明になった事故から約1年半をかけた安全委の調査が終了。報告書では事故を未然に防ぐさまざまなセーフティーネットが機能しなかったと結論付けた。再発防止策として、安全に関する責任者の審査の厳格化や小型旅客船の隔壁の水密化などを求めており、国土交通省はこれらを含む66項目の対策に取り組む。海上保安庁が業務上過失致死容疑で捜査している。
 斉藤鉄夫国交相は7日の会議で「実情を把握できず事故が起きたことは痛恨の極み。大いに反省が必要だ」と述べ、省幹部らに対応を指示した。
 報告書によると、運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(60)は新型コロナウイルス禍で経費節減を優先し、経験豊富な乗組員らを雇い止めにした。船に関する知識や経験がなく、資格要件を満たさないのに自ら安全統括管理者や運航管理者に就任。安全管理体制が存在しない状態だった。
 豊田徳幸船長=当時(54)=も経験不足で、出航してはならない気象状況なのに出航し、その後も的確な時機に引き返さず運航を続けた。
 国交省北海道運輸局は2021年に知床遊覧船を特別監査。その後の抜き打ち確認などでも不備を把握できなかった。日本小型船舶検査機構は事故前の検査で、ハッチの状態を目視だけで良好と判断し、不具合を改善できなかった。
 再発防止策として、事業者は悪天候が予想される際、途中で引き返す前提で出航しないことが必要だと指摘。地域の同業数社が互助的に安全性の向上を図ることも有効とした。
 国交省には安全統括管理者や運航管理者の審査を厳格化する制度の検討などを促した。海保に対しては関係機関との調整の在り方を早急に検討して救助体制を強化すべきだとした。
沈没事故前に撮影された「KAZU Ⅰ」の船首付近のハッチ(運輸安全委員会提供)