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香り豊か 樹木発酵の酒 国産木材需要増へ開発 森林総研 独自の風味、設備費が課題


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 国の研究機関、森林総合研究所(茨城県つくば市)が、樹木を発酵させて酒を造る技術を開発した。製法は焼酎に近いが、これまでにない独自の風味で世界初の技術としている。生産設備の導入に億単位の費用がかかるのがネックとなるが、国産木材の需要増を狙い商業生産を目指す企業の支援にも力を入れる。
 透明な液体から漂う木の香りが新鮮だ。7月末、記者はシラカバ、スギ、クロモジ、ミズナラの蒸留酒を試飲した。アルコール度数は試飲用に調整し25%。シラカバはウイスキーのように熟成された味わい。つまようじの原料に多いクロモジは果物に似た甘い香りだが、ほどよく苦みもある。
 香り成分の分析では、ワインやビワなどさまざまな食品に含まれる物質が検出された。造りたてでもたるで長期間熟成させたような香りが混じり、複雑な風味が味わえる。安全性も確認した。
 大塚祐一郎主任研究員(46)によると、樹木に含まれるアルコール発酵に必要な糖分のもとはこれまで、劇薬を使わなければ取り出せず、飲用アルコールの製造はできなかった。東京電力福島第1原発事故後、放射性物質を含む木材を活用しようとメタンガスの製造を試みる中で、薬剤を使わない方法が見つかった。
 技術の要は、木を千分の1ミリ以下に粉砕し、硬い細胞壁に覆われていた糖分のもとをむき出しにすること。チョコレートやインクを滑らかにする装置を改良し、木材を水と混ぜて微粒子状に粉砕することに成功。2018年に開発し、21年に特許を取得した。
 微粒子に酵素を加えて生まれた糖分を酵母で発酵させ、蒸留。重さ約2キロのスギからウイスキーボトル1本分、約750ミリリットルの酒が造れる。企業が大型機を導入すれば、1週間で少なくとも50本が造れる見通しだ。
 商品化を目指しているのが、廃棄される酒かすを使った酒造りを手がけるベンチャー企業「エシカル・スピリッツ」(東京都台東区)だ。森林総研から研修を受け、技術を伝授された。担当の辰巳和也さん(26)は「間伐で生まれる未利用の資源も活用できる」と意気込む。埼玉県のスギから仕込んだ酒を25年までに売り出すのが目標だ。
 森林総研は、酒造免許を持つ国内事業者で国産木材を使うなら特許使用を認め、専用の研究棟で技術を伝えるとしている。ただ契約に至った企業や団体はエシカル社を含め4社。2億~3億円はかかる設備費用が課題だ。
 大塚さんは「国や自治体の補助金を利用すれば実現への道は開けるのでは。国内に1200種あるという木を各地の湧き水で仕込むなど事業の可能性は幅広い。思いのある方と木材の新たな価値を創りたい」と語った。
できあがった酒と木材を手にする、森林総合研究所の大塚祐一郎主任研究員=7月、茨城県つくば市