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読み書き困難 IT使い克服 学習障がい  タブレット入力、学び環境開く


読み書き困難 IT使い克服 学習障がい  タブレット入力、学び環境開く 特別な支援が必要とされる児童・生徒の割合
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 発達障害の一つで、読み書きなどに困難を抱える「学習障害(LD)」。生まれつきの特性だが、教育現場では「本人の努力不足」とみられがちで、十分な配慮がなされていない。そうした中、タブレット端末の入力機能を使い、学びの環境を切り開こうという取り組みが始まっている。
 「僕は書く速さが小2と同等です。まずはノートをiPad(アイパッド)で取るところから始めたいです」
 7月最後の日曜日。東京都内で支援団体が開いた講座「KI▼KU▼TA」(機器も、駆使して、楽しく学ぶ)の修了式。小学6年の山本英太君(11)はスライドで技能検査の結果を示しながら、プレゼンテーションを行った。参加したのは同様の特性がある小5~中2の11人。講座では約3カ月にわたりIT機器を使った対処法を学んだ。
 両親が英太君の問題に気付いたのは小学校入学直後のこと。自宅でひらがなの宿題をさせようとすると、ハーハーと息遣いが荒くなり、紙を破いて床にうずくまったまま動かなくなった。一本線を「左から右に引くんだよ」といくら教えても、右から引く。文字というより、図形を描いているようだった。
 「ずっと孤独な闘いでした」。母親の美奈さん(41)は英太君が大好きなポケモンのイラスト入りのドリルを手作りし、片仮名や簡単な漢字を一緒に練習した。しかし学年が上がるにつれ、そのやり方も限界に。読み書きの障害は、耳で聞いた音韻を、頭の中で文字の形に結び付ける力が弱いのが背景にあると考えられている。そうした特性を理解せずに、「もっと本人に書かせて、負荷をかけた方がいい」と言う教師もいた。
 英太君は4年生の頃から次第に学校を休むようになった。美奈さんは「読み書きがプレッシャーになっていたんだと思います」と振り返る。
 これから先、どうすればいいのか。悩みの中で出会ったのが一般社団法人「読み書き配慮」(東京)主催の講座だった。菊田史子代表理事(53)の大学生の長男も書くことが困難だったが、ある時、タブレット端末のキーボード入力や読み上げ機能で文章を作成できると知った。一方で高校入試では「前例がない」として使用を認められず、学校探しに苦労した。
 講座では、さまざまなアプリの使い方を学ぶほか、「自らの特性をきちんと伝え、学校側との建設的対話につなげるのが第一歩」として、未来の自分はどうなりたいかを考え、必要な配慮をプレゼンできるようにする。英太君は恐竜が大好きで、夢は古生物学者になること。講座から帰ると「表情がキラキラしていた」(美奈さん)。同じ障害がある大学生のチューターから研究の話を聞き、知的好奇心が刺激されたようだった。
 菊田さんは修了式で子どもたちに呼びかけた。「みんなはできないこともあるけど、誰もが人と比較にならないぐらい輝いている。そこをとがらせて、生きていってほしいと思います」
一般社団法人「読み書き配慮」が開いた講座の修了式に臨む山本英太君(手前左)=7月、東京都新宿区