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教員の悩み 寄り添い支援 埼玉川口市、カウンセラー奔走


教員の悩み 寄り添い支援 埼玉川口市、カウンセラー奔走 埼玉県川口市立小で校長と面談するカウンセラーの土井一博さん=6月、埼玉県川口市
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 心の病で学校を休んだり辞めたりする教員が後を絶たない。計画通りの配置ができない「教員不足」を招いており、メンタルヘルス(心の健康)対策が喫緊の課題だ。積み重なる仕事に悩む教員を早期に見つけ、カウンセラーが面談する取り組みを続けるのが、埼玉県川口市教育委員会。多忙を極める学校へ出向き、教員に寄り添おうとする実践に密着した。
 「春に新体制になってしばらくたつけれど、心配な先生はいますか」。順天堂大客員教授でカウンセラーの土井一博さん(63)が6月下旬、川口市立小で校長に尋ねた。目を落としていたのは、勤務する全教員の顔写真が載ったリストだ。
 赴任したばかりなのに辞めたいと漏らす、早く帰るよう促しても深夜まで残業する、子が生まれて睡眠不足なのかミスが増えている―。指導方針の違いで頻繁に意見対立する2人がいるとの話題も出た。校長の説明は約50分に及んだ。
 特に心配な教員が複数いるとの結論になり、土井さんによる後日の面談が決まった。「みんな責任感が強く、突然倒れてしまわないかどうか心配」と校長。土井さんは数日後に予定されている校外学習を念頭に「行事後は緊張の糸が切れるので、注意を払ってください」と助言した。
 大卒後に10年ほど公立中で教員として勤務した土井さん。退職して大学院でメンタルヘルスを学び、複数の大学で学生相談などを経験した。2007年度から川口市教委の依頼で教員のカウンセリングに当たる。
 1日に小中学校2、3校を回って校長や教員の話に耳を傾ける「ご用聞き」(土井さん)が仕事の中心。深刻化する前に芽を摘むことを重視する。定期的に学校に配るプリントで相談を呼びかけ、携帯電話番号も載せる。「教員は真面目で問題を抱え込みがち。相談のハードルを低くしたい」
 21年度、全国の公立小中高校と特別支援学校で精神疾患を理由に休職した教員は5897人で過去最多となった。全教員に占める割合は0・64%(156人に1人)。川口市は0・60%で平均より少し良い状況だった。
 22年度に川口市で土井さんらカウンセラー2人が対応した教員や校長は延べ745人に上る。ある校長は「部下のことは誰にも相談できず、自分の不安を聞いてもらえるだけで安心できる」と話しており、管理職の心理的負担の軽減にも一役買っているようだ。
 小川正人東大名誉教授(教育行政学)は「問題が表面化する前に働きかける実践で、非常に有効だ。他の自治体が同じ事をするには、カウンセラーの負担が重くて難しいかもしれないが、どの地域でも解決策を模索している段階なので、文部科学省を中心に好事例を共有することが重要になる」と指摘した。
埼玉県川口市立小で校長と面談するカウンセラーの土井一博さん=6月、埼玉県川口市