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山口 芳裕(やまぐち・よしひろ)さん 死傷者減らす備えを


山口 芳裕(やまぐち・よしひろ)さん 死傷者減らす備えを 災害医療の限界を訴える杏林大教授の山口芳裕さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

救急医として長年現場に立ち、数えきれぬほど多くの死を目撃した。地震、原発事故、化学工場の爆発火災。重いやけど、銃創といった戦場での医療にも強い。だが、災害現場で医療が担える役割は限られると訴える。懸念されている南海トラフ巨大地震のような広域災害では特にそうだ。

 「医療者が被災地に飛び込んでスーパーマンのように活動するなんてのは大きな勘違いです」

 家屋の倒壊や火災、津波、土砂崩れで即死する人は救えない。トイレ、キッチン、ベッドといった避難所の環境を整えなければ災害関連死は防げない。インフラの整備など、死傷者を極力少なくする備えをしておくのは国家の責務と力説する。医療者は、たとえ悪条件の現場であっても、救助された負傷者の治療に全力で当たるだけだ。

 東京都災害医療コーディネーターとして、都の災害派遣医療チーム(DMAT)の運用について知事に助言する立場。東京DMATは、現場展開力のある東京消防庁と常に一緒に動く独特の仕組みを採用している。危険な現場での安全や移動手段を確保するためだ。

 被災地では移動手段が限られるため、医療者が現場にたどり着けない可能性が高い。他地区のDMATで移動手段がなく立ち往生した例もあり、工夫が必要という。

 「求められる活動は医療だけではない。電気、通信、経済支援…。やるべきことを整理して迅速に動ける仕組みがいる。誰かが何とかしてくれるという甘えは通用しない」。東京都出身、63歳。