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賃上げで働き控え 拡大懸念 年収の壁対策 「付け焼き刃」否めず


賃上げで働き控え 拡大懸念 年収の壁対策 「付け焼き刃」否めず 政府の「年収の壁」対策パッケージ概要
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 配偶者に扶養されるパート従業員らが社会保険料負担を避けるため労働時間を抑える「年収の壁」を巡り、政府の対策が固まった。最低賃金が各地で大幅に引き上げられる10月に間に合わせる必要があった。年収の壁を意識して働き控えが拡大し、人手不足に拍車がかかるとの経済界の懸念が背景にある。抜本対策を先送りしたため「付け焼き刃」の感は否めない。 (1面に関連)
 「中小企業を守ってほしい」。東京都内を中心にスーパーなどを展開する「アキダイ」の秋葉弘道社長は、こう訴えた。
 物価高で商品の仕入れ値が上がっても客離れを警戒し値上げに踏み切れない中、都の最低賃金は1113円と昨年から41円増える。人手確保のため従業員には例年、最低賃金より高い時給を払ってきた。今回もさらに上積みを迫られる。
 時給の引き上げにはジレンマがつきまとう。全店舗で働く計約200人のうち、パートは半数を超える。年金や健康保険の社会保険料負担で手取りが減るのを嫌い、労働時間を抑える「就業調整」をしている人は多い。
 秋葉社長は「時給引き上げで就業調整を招き、人繰りが一層厳しくなる」と不安視。「国は賃上げを推進するなら、年収の壁を巡る制度を見直してほしい」と訴えた。
 日本スーパーマーケット協会の調査では、配偶者のいるパートの約6割が就業調整していると回答。理由は「社会保険の扶養から外れたくない」が最も多かった。
 社会保険料は年収106万円と130万円を境に自己負担が生じる。政府は当面の措置として、106万円の壁については保険料を肩代わりした企業に補助金を支給するほか、130万円を超えても連続2年までは扶養内にとどまれるようにする。
 収入に応じた保険料を加入者が納める原則から外れる特例と言え、自営業や単身の世帯と比べて「優遇だ」との批判が政府内にもある。
 調査では、パートの人がいくらまで年収を抑えようとしているか、との問いに「103万円以下」が半数を超えた。103万円は所得税の支払いが必要となる基準。意識する年収額と、就業調整の理由にずれがあり、同協会は「(年収の壁の)複雑な制度を分かりやすくしてほしい」とした。
 政府は、今回の措置の終了後は社会保険の制度自体の見直しで対応する方針だ。
 会社員らに扶養される配偶者は、国民年金の「第3号被保険者」と呼ばれる。自身で保険料を納めなくても老後の年金を受け取ることができ、就業調整の一因とされる。
 厚労省は会議で、年収の壁を超えた場合でも保険料を減免する案を例示したところ「納付している他の加入者と不公平だ」などとの異論が噴出。共働きが一般的になる中で「3号制度が時代に合っておらず、見直すべきだ」との声が上がった。
 3号被保険者は現在700万人以上で、見直し内容によっては幅広く負担増につながる。厚労省幹部は「制度変更のハードルは高い」と漏らす。