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「家畜の福祉」 広まるか 快適環境で飼育、ストレス減 国が指針、消費者価値観も鍵


「家畜の福祉」 広まるか 快適環境で飼育、ストレス減 国が指針、消費者価値観も鍵 アニマルウェルフェアの5項目
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 動物のストレスを軽減し、快適な環境で飼育する考え方「アニマルウェルフェア」(動物福祉、AW)。欧州で先行して広まり、日本でも農林水産省が今年6月、家畜飼育のガイドラインを策定した。ただ、生産効率を重視する考え方とは相反するため、浸透するかどうかは不透明で、消費者の価値観も鍵となりそうだ。
 AWは十分な食事・水を確保することや、衛生・健康状態の管理、行動の自由など、五つの項目からなる。欧州では法制化も進む。日本でもペット業界、動物園などで認知が広がる。
 茨城県石岡市で採卵鶏約3千羽をAWに配慮して飼育する松崎泰弘さん(51)の鶏舎。鶏が自由に歩き回るスペースが敷地の半分を占め、止まり木も用意されている。運動量が多い分、鶏が病気になりにくく濃厚な味の卵が採れるというが、小売価格は6個で300円とやや割高。松崎さんは「利益を上げようと飼育羽数を増やすと衛生・健康管理に影響し、AWと反する」と難しさを語る。
 信州大農学部の竹田謙一准教授(動物行動管理学)によると、日本では狭いスペースで多くの家畜を飼育するのが主流。おいしい食肉や乳製品が安く食卓に並ぶ理由の一端だ。
 AWのうち衛生や栄養状態は品質管理の面から重んじられるが、行動の自由については施設改修などコスト面や生産効率の低下が課題で、「国土面積の狭い日本の実態と合わない」と業界の抵抗感は強い。「食用である家畜の生活環境にどれほど配慮するべきか」との疑問の声もある。2022年、吉川貴盛元農相が有罪判決を受けた鶏卵汚職事件では、鶏卵業者側が、AWを巡る国際基準案に反対してほしいとの趣旨で賄賂を提供したとされた。
 日本では業界団体が自主的に策定した指針があるため、国は関与してこなかった。だが近年海外で、食品の安全性評価や、企業の投資家向け格付け評価にAWへの取り組みが取り入れられるなど関心が高まり、大手食品加工業などを中心に政府指針を求める声が上がった、と竹田准教授は説明する。こうした声を受けて農水省が出した指針では、家畜の種類ごとに行動の自由に配慮した飼育法が明記された。
 竹田准教授が21年に行った調査では、AWという言葉を「聞いたことがある」と答えた消費者は25%。畜産商品を選ぶ際に飼育環境を考慮する人も約20%だった。
 竹田准教授は「消費者が安さを重視する現状では、取り組みを頑張る業者が損をする。事業支援で価格を下げることや、AWを重視する消費者を増やせるかどうかが、浸透するポイントになる」と話した。
AWに配慮した飼育をしている松崎泰弘さんの鶏舎=12日、茨城県石岡市