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「余命はあと半年」10歳で亡くなった娘の名前、思い出を胸に レモネード売り上げで「小児がん闘病」支援 沖縄・うるま


「余命はあと半年」10歳で亡くなった娘の名前、思い出を胸に レモネード売り上げで「小児がん闘病」支援 沖縄・うるま イベントでのレモネード販売の様子。ポスターはイラストレーターの326(ミツル)さんが描いてくれたという(提供)
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉陽 拓也

 小児がんと闘う子どもや親を支援したい―。2022年3月、脳幹に悪性腫瘍ができる小児がん脳幹グリオーマにより次女のいろはさん(享年10歳)を亡くした小川蘭さん(39)=うるま市=が、レモネードの売り上げを日本小児がん研究グループ(JCCG)に寄付する支援団体「いろはレモネードスタンド」を8月に立ち上げた。亡き娘の思い出を胸に「社会全体へ慈善活動が広がっていければ」と賛同者を増やすため奔走している。

■突然の余命宣告

 21年9月、フィギュアスケートの練習中によく転ぶようになったいろはさん。心配になり、地域の病院で診察すると中部徳洲会病院を紹介され、脳幹グリオーマと診断された。

 「余命はあと半年」。脳の中枢神経にできたがんは治療が難しい上に進行も早い。「娘さんと過ごす時間を大切にしてください」。医師からの言葉は感情が追いつかないものばかりだった。

 南部医療センター・こども医療センターで約1カ月の放射線治療後、母子2人の国内旅行で思い出を重ねたが、22年2月に病状が悪化。訪問看護を続けた同3月12日、いろはさんは家族に見守られ天国に旅立った。

 1分1秒を惜しんで付き添った日々だが、亡くなる直前「ママが頑張るから頑張らなくてもいいよ」と声をかけると「うん、うん」とうなずいたという。

きょうだい4人で仲良く撮った写真。右端がいろはさん(提供)

■手紙と子犬

 いろはさんをみとったその日から残る3人の子育てもままなくなり、送迎ではいろはさんを思い出して涙があふれるため学校には入れなかった。
 そんな小川さんを気にかけ、闘病中のいろはさん宛てに手紙を書き続けた学校の親友が「元気に過ごしてくれることを願っています」と毎日、励ましの手紙をくれた。]

 葬儀の際も多くの保護者から手紙をもらい、学校長は長男と毎日ランチを共にしてくれたという。娘が通っていたのは沖縄クリスチャンスクールインターナショナル。「文化の違いもあるかもしれませんが、私や子どもらを優しく見守るような思いやりとケアに助けられました」

 それでも半年ほど引きこもりが続いた。ある日、自宅そばの空き地に迷い込んだ子犬を保護し、飼い始めた。子犬に連れ出されるような散歩と一人の時間が、娘との思い出や自分自身の感情を整理してくれるようだった。一周忌の頃から眠れるようになり、学校行事にも参加し始めた。

■親子への支援

小川蘭さん

 日常が戻り始める中で思い出したのが、数年前に住んでいたハワイで日常的に行われていたレモネードスタンドだ。米国で小児がん闘病中の少女の行った活動が全米に広がった社会貢献活動。子どものお小遣い稼ぎとしても定着している。日本でも16年に普及協会が設立されている。

 難治性のがんの治療技術が進展すればと考え、今年8月から始めた小川さんの活動も徐々に賛同者が増えている。レモネード1本の金額は子どもでも買える200円。仕入れ値を除くほぼ全ての売り上げをJCCGに寄付しており、その額は毎月10万円を超える。店舗はなく、イベント時のみの出店。

 医療技術の進展も期待するが、重病の子を支える親や経済的支援の必要性も痛感している。
 入院中、別の母親らが病室にカップラーメンを山積みにしたり、コンビニのパンを大事に食べたりしてわが子に付き添う光景に胸が締め付けられた記憶が残っているからだ。同じ境遇の親も支援につながればと、事業規模を広げるため店舗の確保やレモネード以外の販売も検討している。

■娘の事を語る

 活動がメディアに取り上げられるようになり、行政や学校のイベントへの招待も増えていた。善意の輪が継続的に循環し、さらに慈善活動が広がるように「今頑張ればきっとうまくいくし、みんなに知ってもらえると思う」と歩み続ける。

 振り返ると悲しみに暮れていた約1年前、まな娘を亡くした体験を語る自分を想像できなかった。でも、「大人になったらコーヒーを飲んでみたい」「獣医師になりたい」と小さな胸にたくさんの夢を抱きながらも「大人になる選択肢がなかった娘」を思えば、「大人の私たちが現状を変えないと」と震える声で語る。

 いろはさんの名前の由来は妊娠中に夫の故郷、栃木県のいろは坂で見た紅葉だった。鮮やかさに胸打たれ、その名を決めたことを含め、活動を通し、娘のことを多くの人に覚えていてほしいとも思っている。問い合わせはogawa.ran@gmail.com (嘉陽拓也)