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内密出産、法整備進まず 指針1年、課題なお山積


内密出産、法整備進まず 指針1年、課題なお山積 熊本市で開かれた、子の出自を知る権利の保障に関する検討会=8月
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 危険な孤立出産を防ごうと、熊本市の慈恵病院が導入した「内密出産」。病院はこれまで14人の出産を公表したが、全国的な広がりは見られない。国が指針を策定して30日で1年。身元に関わる情報管理を事実上、病院に委ねており、どのように情報を子どもに開示するかなど、課題は山積のままだ。法制化を求める声もあるが、道筋は立っていない。
 24時間態勢で相談に応じる慈恵病院には、2022年度、妊娠に関する相談が県内外から約2800件寄せられた。病院以外に身元を明かさず、内密出産した14人の中には、東日本など遠方から来院した女性もいた。
 家族との関係に問題を抱え「誰にも言えない」と思い詰めた人も多い。身元情報は病院の金庫に保管し、病院側は女性たちの退院後も連絡を取り続ける。
 病院はマンパワーだけでなく、出産費用も負担する。蓮田健院長は「法整備されれば、他の病院でも対応できるのでは」と訴える。
 指針は身元情報の保存などに関する規定の明文化を医療機関に求めており、慈恵病院は今年5月、市と共同で、子の出自を知る権利の保障に関する検討会を設置した。
 座長で文京学院大元教授の森和子氏は取材に「出自の情報は人間のアイデンティティー。国が一元化し、永年保存できるシステムができれば」と強調する。
 こども家庭庁の関係者は「まずは内密出産に至らない支援を目指すのが国の仕事」とする。出自情報の保存や管理に関する法整備は「国で情報を管理するとなれば、生殖補助医療で生まれた子なども幅広く対象となる。すぐに結論が出る話ではない」として検討は難しいとの見方だ。
 熊本市も4月に新たな取り組みとして「妊娠内密相談センター」を開設。妊娠に関する悩みを抱える女性の相談に、社会福祉士ら職員計6人のチームが匿名で応じる。
 センター職員は、内密出産した複数の女性たちに面会した。指針が身元を明らかにするよう、関係機関に「行政が同席の上で」説得することを求めているためだが、慈恵病院関係者は「女性に同じ話を繰り返させている」と負担感を指摘した。
 目白大の姜恩和教授(子ども家庭福祉)は「女性の負荷を軽減することを念頭に、現場の話に耳を傾けるべきだ」と指摘。妊婦の相談に応じる機関や、出自情報の管理や開示などの取り扱いを法整備し「国や自治体と役割分担の検討が必要だ」と話した。
熊本市で開かれた、子の出自を知る権利の保障に関する検討会=8月