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知識偏重脱し 主体性伸ばす 異色の学校、四国に続々 自由な発想で起業家育成


知識偏重脱し 主体性伸ばす 異色の学校、四国に続々 自由な発想で起業家育成 インタビューに答える「FC今治高校里山校」の学園長に就く岡田武史さん=9月、愛媛県今治市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 協調性や知識量を重視してきた日本の公教育を変える学校が四国に続々と生まれつつある。主体性を伸ばす高校と起業家精神を育てる高等専門学校。いずれも県内外から広く生徒を募る。地元の教育関係者は、四国遍路に由来する住民の寛容さと自然豊かな環境が10代の教育に適すると強調。地方だからこそ自由な発想を形にできるようだ。
 愛媛県今治市に本拠を置くサッカーJ3のFC今治は地元の学校法人と提携し、来年4月に「FC今治高校里山校」を開設する。FC今治会長で同校の学園長に就く岡田武史さん(67)は元サッカー日本代表監督だ。
 とはいえ、サッカーを教える学校ではない。生徒らに主体性や感性を養ってもらおうと、自身が持つ幅広い人脈から講師を招くほか、地場企業の協力も得てタオル製造を体験するなど校内外で多様な学びを提供する。
 岡田さんは学校教育に乗り出す理由を「人工知能(AI)の登場で社会が変わろうとする今、全員一律の指導よりも生徒の個性を伸ばす教育が重要だ」と力説する。募集定員は80人。「(普通の学校だと)先生は裁判官になりがちだが『どうしたいの?』という問いかけを通して生徒に自分で答えを出してもらう」
 徳島県神山町に今年4月、19年ぶりの新規高等専門学校として「神山まるごと高専」が誕生した。独特な校名には、豊かな未来の創造に必要な力を授業や町民との交流、寮生活の経験から丸ごと学んでほしいという思いを込めた。周辺に点在するIT企業のサテライトオフィスとも接点を持ち、実践的な知識を獲得。起業家精神を養成する。
 民間企業から約100億円の基金を調達、学費は運用益で賄うため無料だ。広報の矢野志織さん(30)は「社会に変化を与える学生を育てようと、開かれた学校づくりを意識した」と話す。今春は倍率9倍の入試を経て約40人が入学した。
 なぜ四国にユニークな学校の設置が相次ぐのか。徳島県海陽町の県立海部高で都市部からの入学者数の増加に取り組む、一般社団法人「ミライの学校」代表理事の高畑拓弥さん(34)は、身近な自然に結び付く地域住民の生活と四国遍路が育んだ誰でも温かく迎え入れる文化を理由に挙げる。
 山、川、海といった自然に囲まれ、農業や漁業に生徒が直接触れることができる。自ら問いを立て学ぶ「探究型学習」が重視され始めた中、当事者意識を持って地域の課題解決を模索する教育を実践しやすいという。
 高畑さんは「お遍路」を通して外から来た生徒を優しく見守る習慣が根付いているとも説明する。机から離れ、地域社会とつながる学びの形が四国から始まっている。

徳島県神山町に19年ぶりの新規高等専門学校として開校した「神山まるごと高専」=8月
インタビューに答える「FC今治高校里山校」の学園長に就く岡田武史さん=9月、愛媛県今治市