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早稲田大学坪内逍遥大賞に決まった 池澤 夏樹さん 「初心に戻る」を積み重ねて


早稲田大学坪内逍遥大賞に決まった 池澤 夏樹さん 「初心に戻る」を積み重ねて 第9回早稲田大学坪内逍遥大賞に決まった池澤夏樹さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 翻訳家として出発して以降、小説はもちろん、詩や評論、エッセーも書き、世界文学全集と日本文学全集各30巻を編集した。そんな幅広い仕事が「日本語文学の世界を活気づけた」と評された。
 「仕事がちらかったのは僕が飽きっぽいから」と照れた後、こう付け加えた。「何か一つのことをひとしきりやると別のことがしたくなり、初心に戻ってまた新しい仕事をする。それを重ねることでここまで来ました」
 北海道出身。若い頃から各地を旅し、ギリシャ、フランス、沖縄、札幌などへ移住、今は長野県安曇野市に暮らす。「スティル・ライフ」で芥川賞を受賞したのは42歳の時だ。その後も多くの賞に恵まれてきた。
 今回特に評価されたのは3月刊行の小説「また会う日まで」。700ページを超える長編で、大伯父の秋吉利雄に即して日本の近現代史を見詰めた。
 「利雄は海軍軍人でキリスト教徒、天文学者でもあるので矛盾を抱えた。彼の目を通して戦争を描こうと思った。資料は膨大にあるから勉強、勉強、勉強だった」。利雄の詳しい年譜を作り虚構も交ぜた。「Mという架空の人物を登場させ、僕の歴史観も加えました」
 2011年に利雄の三男が亡くなり、家族から利雄に関する資料が段ボール2箱分あると知らされた。文学全集の仕事を終えて読み始めると「これは大変だなと。でも僕は作家。世に出すのは義務だと思った」
 大仕事を終えて、なお意気軒高だ。「これから何をやるか、幾つかプランがあります」。78歳。