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戦時下のウクライナで タクトを振った 吉よし田だ 裕ひろ史ふみさん 友情と励まし、音楽で


戦時下のウクライナで タクトを振った 吉よし田だ 裕ひろ史ふみさん 友情と励まし、音楽で 戦時下のウクライナでタクトを振った吉田裕史さん
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 戦時下のウクライナ、オデッサ歌劇場の開幕公演で9月、オペラ「ラ・ボエーム」を指揮した。開幕公演を務めるはずだった劇場のトップ指揮者がウクライナに侵攻したロシアの同盟国ベラルーシの出身であるため更迭され、回ってきた出番。家族は危険だと反対したが「こういう時にこそ最高の音楽を届けたい」と出演を決めた。
 高校2年の時、小澤征爾さんの公演を見たのをきっかけに指揮者を志した。2007年、今も拠点とするイタリアでオペラの指揮者としてデビュー。20年に客演したのが縁で、21年にオデッサ歌劇場の首席客演指揮者に就任していた。
 今回は隣国モルドバから入国。シェルター付きのホテルに滞在した約1週間、ロシアの攻撃を伝えるスマートフォンのアプリは毎日鳴った。想像以上の恐怖に「この生活を1年半も続けているのか」とがくぜんとした。
 9月10日の公演。歌劇場は心待ちにした市民らの興奮で満ち、演者も実力以上の熱演を見せた。終了後の観客の明るい表情を見て芸術は“心の栄養”だと再確認した。「つかの間の平和を味わい、癒やされることで、つらい現実に立ち向かう力を得ている」
 公演後、軍服の男性に「子や孫がオペラを楽しめるように頑張る」と抱きしめられた。国同士の関係は複雑で、戦争はいつ終わるか分からない。終戦を迎えても関係が元に戻るのは難しい。可能な限り演奏に訪れ、友情と励ましの気持ちを伝えたいと思っている。千葉県出身、55歳。