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段ボール授乳室に賛否 松江道の駅、鍵や天井なし 専門家「利用者目線を」


段ボール授乳室に賛否 松江道の駅、鍵や天井なし 専門家「利用者目線を」 批判を受け、人目に付きにくい階段下に移した段ボール製簡易授乳室=11月、松江市の道の駅「秋鹿なぎさ公園」
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 全国の道の駅で授乳スペースの設置が遅れる中、日本道路建設業協会(東京)が松江市の施設に寄贈した段ボール製の簡易授乳室が大きな反響を呼んだ。「鍵や天井がなく、のぞかれそう」などと疑問視する意見が交流サイト(SNS)上で広がる一方、「百点満点じゃなくても使う人がいるなら設置した方がいい」と擁護する声もあった。専門家は「どのようなスペースが求められているのか利用者目線で考えるきっかけになればいい」と提言する。
 松江市の道の駅「秋鹿(あいか)なぎさ公園」に同協会寄贈の段ボール製簡易授乳室が設置されたのは9月中旬。幅1メートル、奥行きと高さが2メートル、重さ20キロで、元は災害用に開発されたものだった。
 天井や鍵はなく、出入り口はカーテンで覆われていた。SNSでは「女性の羞恥や恐怖に無頓着」「落ち着いて授乳できない」といった非難が殺到。島根県の丸山達也知事が記者会見で「百点じゃないから供用すべきじゃないというのは間違っている。車で授乳するのとどっちがいいかということだ」と反論する事態にまで発展した。
 道の駅スタッフ手島裕平さん(36)が利用者に直接、感想を求めたところ、男性は全員が肯定的だった半面、女性は「鍵がないのは不安」などといった否定的な声が多かった。道の駅は批判を受け、授乳室の天井を半透明のプラスチックでふさぎ、置き場所を人目に付きにくい階段下に変えた。隣にはベビーカーを置くスペースを設けた。
 手島さんは「子育て経験がある人の声はもっともなものばかりで参考になった。安心して使えるようこれからも工夫していきたい」と語る。
 日本道路建設業協会が授乳室を寄贈した背景には、道の駅の授乳室設置が遅れている事情がある。国土交通省によると道の駅は開業予定を含め全国に1209ある。授乳室やおむつ交換台を備えたベビーコーナーがあるのは4月時点で474駅で、4割に過ぎない。
 協会は2023年度に50駅、今後3年間で150駅への寄贈を目指しているが、騒動を受け改良を決定。扉にスライド式の鍵を付け、壁を50センチ高くできるパネルも用意した。
 子育てのストレスを減らす取り組みは待ったなしだが、授乳室の整備に詳しい東洋大の仲綾子教授(こども環境学)は「授乳に対する考え方は人それぞれで論争になりやすい。導入前に試行錯誤が必要だった」と指摘。当事者の意見を踏まえて進める重要性を強調した。
 「育児の中でも授乳の期間は限られている。不満があってもその時期をやり過ごすと声を上げなくなるため、環境を改善しづらい。今回議論があったのは良いことだ」と話している。