精神科病院の入院患者を外部の専門職や市民らが訪ね、面会して相談に乗る国の事業が4月から始まった。精神科病院は閉鎖的になりがちで、患者も声を上げにくいため、外部の目を入れて患者の権利を守るのが狙い。ただ、実施主体となる自治体の動きは鈍く、対象の患者も一部に限られる。今後、どこまで広げられるかが課題だ。
「たわいのない話を聞いてもらえたことがうれしかったみたいです」。和歌山県で訪問支援員を務める堀本久美子さん(45)はそう振り返った。
同県は昨年度から先行してこの事業を実施しており、堀本さんはもう1人の支援員と一緒に昨年12月、和歌山市内の病院で男性入院患者と面会した。男性はその後も訪問を受け、今後の生活への不安な気持ちを相談しているという。
堀本さん自身、精神疾患で入院経験があり、現在は「ピア(「同等」の意)サポーター」として活動する。「入院していると、自分の希望を言うのは勇気と時間が要る。話を聞いてくれる人がいたら、安心すると思う」
事業は、2022年成立の改正精神保健福祉法に盛り込まれ、今年4月に施行。国が費用の半分を負担し、都道府県や政令市、東京23区などが実施する。
主な対象は、身寄りがないなどの理由で市区町村長の同意により「医療保護入院」した患者。本人の希望を受け、支援員が相談に乗ったり、必要な情報を提供したりする。
モデルとなったのは、認定NPO法人「大阪精神医療人権センター」(大阪市)が取り組む病院訪問だ。患者と面会したり病院側に要望を伝えたりして、精神医療の向上につなげてきた。
精神科の入院患者は自尊心が低下し、孤独を感じていることが多い。話を聞くことで意思表示ができるようになったり、第三者の目が入って病院の風通しが良くなったりする効果が期待できる。ただ、厚生労働省によると、24年度中に訪問を始める予定の自治体は19にとどまる。
精神医療に詳しい池原毅和弁護士は「日本の精神医療には、強制入院や安易な身体拘束といった人権侵害が多く残っている。そうした問題への取り組みも不可欠だ」と指摘している。
(共同通信)