ハンセン病療養所で暮らす女性に8年間伴走したドキュメンタリー映画「かづゑ的」の上映が15日から那覇市の桜坂劇場で始まる。来県中の熊谷博子監督は「誤解を恐れずに言うなら、泣いて笑って、元気になるハンセン病映画」と語る。沖縄戦への思いも込め、15日の上映時に舞台あいさつを予定している。
主人公は、10歳から長島愛生園(岡山県)に入所している宮崎かづゑさん(96)。病気の影響で手の指や足を切断したが、周囲の協力を得ながら、買い物や料理を自分で行っている。78歳からパソコンを覚え、本も出版している女性だ。熊谷監督は2016年から撮影を始めた。
「いい格好していては本物は出ない。だからお風呂も撮ってね」
撮影初日から自らをさらけ出した宮崎さんは「悪いところを撮れているの?裏を撮れないと真実を撮れない」と、繰り返し熊谷監督に問いかけたという。家族の愛や読書を支えに、困難を乗り越えて個性的に生き抜く女性の姿を8年間追った記録だ。
沖縄愛楽園交流会館の学芸員辻央(あきら)さんは「この20年近く、ハンセン病患者は差別にあらがい、国を訴え闘う人たちと描かれてきたが、個人の営みが抜け落ちていくところがあった。(かづゑ的は)個別の生を捉えた作品で、多くの人に見てほしい」と語る。
熊谷監督は沖縄上映の時期を23日の慰霊の日近くにした。沖縄では日本軍による患者の強制収容が行われ、戦没者も「平和の礎(いしじ)」に当初はほとんど刻銘されなかった過去があり、「もう一つの沖縄戦」と感じているからだという。
(南彰)