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埋もれた歴史「サントス事件」に新証言 ブラジルでの日系強制退去、調査続く 宮城さんら「群星」第8=9号発刊


埋もれた歴史「サントス事件」に新証言 ブラジルでの日系強制退去、調査続く 宮城さんら「群星」第8=9号発刊 宮城あきらさん
この記事を書いた人 Avatar photo 中村 万里子


 ブラジル沖縄県人移民研究塾同人誌はこのほど、移民史研究の同人誌「群星(むりぶし)」第8=9号を発刊した。編集長の宮城あきらさん(85)=サンパウロ在住=は太平洋戦争中の1943年、ブラジル政府が日系人らにサントス市からの24時間以内の強制退去を命じたサントス事件について聞き取りを続けている。同号に収録された県系2世や3世の話からは、生計の基盤が破壊された1世へ事件が与えた影響の大きさがうかがえる。

 サントス事件は“埋もれた歴史”だった。それを掘り起こした宮城さんは22年、事件を体験した16世帯の証言を記録した「群星 サントス強制退去事件特集号」を発刊。第8=9号はそれに続くもので、県系2世の伊波興祐さんと県系3世の知念ジュベルト・マサル、カルロス・マサユキ兄弟が証言している。

 伊波さんの父親と祖父は戦前、サントス市でそうめん工場を経営していたものの、工場と財貨など全てを置いて奥地へ移住を強いられた。伊波さんは当時3歳。生後5、6カ月の妹は事件の2カ月後に命を落とした。興祐さんは戦後、政治家になり、事件当時陸軍に接収されたサントス日本人学校の返還を実現させた経緯を振り返っている。

 知念さんらの祖父は事件で自宅を追われ、畑や家畜などを全て失ったことに落胆し、戦後亡くなった。父は家督を継ぎ一家再建に尽力した。知念さん兄弟は「祖父母の苦労を忘れない」と誓う。

 宮城さんは、ブラジル沖縄県人会などとブラジル連邦政府に補償を伴わない反省と謝罪を求める活動を続ける。その原点は本部町で空襲に遭い、山野を逃げ惑い祖母を失った沖縄戦体験にある。「子や孫のためにも政府に二度と同じ過ちを繰り返させないことを願って謝罪を求めることが、今を生きる私たちの責務だ」と力を込める。

 「群星」は県立図書館の移民資料コーナーなどで読むことができる。

 (中村万里子)