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保全上配慮が必要な環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い湿地500」(重要湿地)に選定されている、与那国町比川地区にある琉球列島最大規模の湿地帯・樽舞(たるまい)湿原が、有事に備え自衛隊などが使用するために政府が検討する「特定重要拠点」の新たな港湾施設の計画予定地に上がっている。10月には国指定天然記念物のアカヒゲが確認されるなど、樽舞湿原やその周辺では貴重な鳥類が数多く生息する。住民や研究者の間では港湾ができれば自然環境の破壊につながり、生物多様性が損なわれると懸念の声が上がっている。
与那国町は有事の住民避難の観点から与那国空港の滑走路延伸や、町比川地区への新たな港湾整備などを国に求めている。町が政府に提出した比川港湾の計画は、カタブル浜から掘り込み、樽舞湿原一帯をしゅんせつするもので、町によると、全長約1.2キロ、幅約300メートルを見込む。
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町教育委員会によると、樽舞湿原は元々、い草の栽培や田畑として利用されていたものの、放置された後は手つかずの自然状態に戻っている。国の鳥獣保護区にも指定されている。
元琉球大農学部准教授で理学博士(昆虫分類学)の屋富祖昌子さんは「樽舞湿原の底の溝には地上から見えない川が流れており、生物多様性にとって重要な湿地だ。水系を壊したら壊滅的な打撃になる」と指摘する。
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20年以上与那国島に通い、アカヒゲの分布調査も行っている鳥類研究家の松尾亮さん(45)=大阪府=は先月下旬、樽舞湿原周辺でアカヒゲの撮影に成功した。複数個体を確認しており、トカラ列島などから越冬のために渡ってきたとみられるという。松尾さんは、樽舞湿原や周辺で国の天然記念物のヒシクイやマガンをはじめ、貴重な鳥類を数多く確認してきた。同湿原では94年にはコウノトリ11羽の越冬も確認されている。
松尾さんは現在、樽舞湿原とその周辺で確認された貴重な鳥類について資料を作成中だ。「樽舞湿原は植物が繁茂しほぼ人が近付けない。調査すれば貴重な動植物がもっと見つかるだろう。生物多様性の観点から、与那国島の潜在能力の高さは国内でも群を抜いて優れている」と話す。
町教委は同湿原について「調査して将来的に保存しなければならない町の貴重な財産」という認識だが、これまでにまとまった生物調査はなされていないという。
比川港湾計画を巡っては、固い地層の掘削やサンゴ礁のリーフを切り開く必要性、活断層の存在など防災上の観点などからも、地元では実効性に疑問や懸念の声がある。
(中村万里子)