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故郷一変 泥とがれき 冷たい雨 救助続く 「夫見つかるまで泣かない」 能登半島地震


故郷一変 泥とがれき 冷たい雨 救助続く 「夫見つかるまで泣かない」 能登半島地震 夫三友さんが取り残されている自宅を訪れた浅田妙子さん。「夫が見つかるまでは泣かずにいようと思う」と気丈に話した=3日午前10時52分、石川県珠洲市
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 故郷の景色が一変した。震度7を観測した能登半島地震は3日、被害の状況が少しずつ明らかに。街は泥とがれきに覆われ、大規模火災の現場では白煙が上がる。物資が行き届かず、インフラも機能不全。「いつまで続くのか」。住民らは寒さ厳しい避難所で、先行きを案じた。倒壊した家屋に取り残された家族、連絡が取れない友人―。救助活動が続く被災地に、冷たい雨が降り注いだ。 (1面に関連)
 息子家族が帰省し、いつもと同じ正月のだんらんのはずだった。激しい揺れに見舞われた石川県珠洲市の書店経営浅田妙子さん(70)は、自宅が倒壊し、夫三(さん)友(ゆう)さん(74)が取り残されている。「見つかるまで泣かないように頑張る」。無事を願い、救助の手を待ち続けている。一方、同市では厳しい現実を前に泣き叫ぶ人の姿もあった。
 おせちを食べ終わり、三友さんが遊んでいる孫たちを見ていた時、地震が発生した。「昨年の地震ほどじゃないね」。三友さんとそう言い合った直後、経験したことのない激震が襲った。
 妙子さんは孫にならいテーブルの下に隠れ、難を逃れた。だが1回目の地震で別の部屋に物が落ちていないかを見に行った三友さんは、崩れた自宅の中に残された。
 建設の仕事をしていた三友さん。退職し、夫婦2人で暮らしていた。知り合いとお茶をする憩いのスペースにするため、蔵を取り壊した際、「三友さんのためなら」と知人の業者が格安で工事を引き受けてくれた。
 「私は『駄目夫』だと思っていたが、『三友さんみたいになりたい』と言われるほど友達に愛され、大切にされていた」
 通りがかった自衛隊員に頼み、一緒に呼びかけたが、返事はなかった。「耳が良くないので、聞こえていないのかもしれない」。家は完全にがれきと化し、手持ちの機材ではどうしようもない。「お父さんが見つかるまで泣かないように頑張る」と気丈に語った。
 周辺沿岸部の集落では、コンクリート製の建物を除きほとんどがぺしゃんこに崩壊している。「かわべさん、聞こえますかー」。消防隊員が家屋に取り残された住民の名前を叫びながら捜索活動を続ける。
 全壊した住宅では、がれき脇に毛布をかけられた遺体が横たわっていた。降り続く雨が当たらないように、傘を広げている。周りに集まる人たちから離れて、男性が大声で泣いていた。
 辛うじて命をつないだ人も、揺れと津波の恐怖、町の荒廃を目の当たりにし、憔悴(しょうすい)していた。
 「後ろを振り返ったら駄目だという一心だった」と、津波からの避難を振り返るのは同市の喜多麻沙美さん(45)。貴重品を取りたいのか、自宅に戻ろうとする高齢者を必死に説得する声や「とにかく上に逃げろ」という怒号が町中に上がっていたという。
 会社員の真脇一成さん(61)の自宅は、津波ではがれたとみられる港のコンクリートで損傷し、長男の家も浸水した。「家の再建は難しいかもしれず、この先が見えない」と力なく語った。