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どうなる?県立中部病院の建て替え 県と病院側、食い違う意見 工事中の環境悪化や機能低下など懸念 沖縄  


どうなる?県立中部病院の建て替え 県と病院側、食い違う意見 工事中の環境悪化や機能低下など懸念 沖縄   中風医療圏域で最大の病床数を有し、救急や災害医療の中核を担う県立中部病院
この記事を書いた人 Avatar photo 嘉陽 拓也

 耐震基準を満たしていない南病棟や本館の狭隘(きょうあい)化が課題となっている、うるま市の県立中部病院の整備事業を巡り、県病院事業局と中部病院で意見の相違が続いている。

 同局は現地建て替えの方針を固めつつあるが、中部病院側は10年以上かかる建て替え工事期間中に患者の療養環境が悪化するだけでなく、医療機能低下によって人材流出が加速する懸念があるとして、移転新築の議論継続を訴えている。県側は年度内にも建設地を決める予定だが、当事者である中部病院側が納得しないまま作業が進みそうだ。

2度の入札不調「南病棟問題」

 新病院建設の背景にあるのは南病棟の存在だ。同事業局は耐震補強工事を予定していたが、患者の転院を巡って近隣病院と調整がうまくいかず、21年度に実施された2度の入札公告は不調に終わった。

 同事業局は新病院建設に切り替え、昨年8月から県立中部病院将来構想検討委員会・部会を開いている。移転候補地も検討した上で「現時点では委員14人中、現地建て替えの立場は12人」という。委員の中部病院の玉城和光院長と中部市町村会長の松川正則宜野湾市長の2人が、移転新築の議論を求めている。

人材育成の要

 中部病院は病床約550床で中部医療圏域では最大規模だ。救急救命センターや基幹災害拠点病院など多くの機能を担い、国の臨床研修制度のモデルとなった人材育成システムで若手医師を輩出し、離島医療の維持にも貢献してきた。

 一方、課題もある。病床稼働率は慢性的に高く、救急医療の受け入れも多いが小児は医師不足で夜間受け入れを制限している。

救急搬送患者の対応を行う県立中部病院救命救急センター=2023年6月、うるま市

 施設は本館(約350床)と南棟(約200床)があり、機能はほぼ本館で担っているため事務部門では肩が触れあうほどの作業スペースだ。機能拡張も難しく、同病院のブランドである臨床研修制度を選ぶ研修医が減りつつあるという。

現場が要望する三つの条件

 病院側は新病院建設には反対していない。だが、現地建て替えの場合、作業や工事車両の出入りで粉じんや騒音が発生し、療養環境が悪化することを懸念する。

 病院機能がさらに低下すれば優秀な医師も離れ、急速な高齢化に伴って高まる医療需要に対応できなくなるリスクがある。

 そのため、玉城院長は23年11月の委員会で、(1)地区医師会や住民に説明して作業を進める(2)研修教育病院としての機能強化(3)建築工程で医療提供能力を低下させないこと―を軸に議論を進めるなら「『移転新築』が最も望ましい」と主張する資料を配布した。

 同事業局は、南病棟問題を解決するためにも建設地を早急に決めて、病院側と医療を制限しない作業工程を検討したい考えだ。

 玉城院長は、県の考えに理解を示しつつも「建物だけの議論ではなく、工事期間中も病院が果たす機能を維持し、発展させる視点が必要。臨床研修機能が低下すれば優秀な医師が歯が抜けるように去り、地域医療を支えられなくなる。将来に課題を残さない議論にしてほしい」と語った。

(嘉陽拓也)