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夏の日の思い出 受け継がれる想い 翁長由佳(サンダーバード代表取締役) <女性たち発・うちなー語らな>


夏の日の思い出 受け継がれる想い 翁長由佳(サンダーバード代表取締役) <女性たち発・うちなー語らな> 翁長由佳
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 夏の思い出はなぜか、子どもの頃の記憶の方が鮮明だ。景色が白むほどの太陽の光、耳をつんざくセミの声、幼なじみと分け合う駄菓子と炭酸。遊んでいた範囲はそんなに広くもないのに毎日が大冒険で、日が暮れて名前を呼ばれるまで目いっぱい遊んだ。扇風機の前を陣取り、広げた「夏休みの友」は一向に鉛筆が進まないのに、腕や頭の日焼けの皮をむく集中力はいつまでも続いた。

 たまの日曜日、遊びにいくタイミングを逃すと父につかまった。タバコの煙と、原稿用紙。「君、ここに座りなさい」と父の前に座らされると、我が家のミニ県議会が始まった。いつものように「おながすけひろくーん」と呼ぶと「はい!」とランニングに半パン姿の父が演説を始めた。今から思うと、議会の一般質問の予行演習だったのかもしれない。何を言っているのかはさっぱり分からなかったが、父との学芸会みたいで面白かった。

 2010年の夏、興南高校が初めて甲子園で春夏全国制覇をした翌日、父が急きょ入院した。翌年の1月に他界するまで、父が家に帰ってくることはなかった。テレビの前のソファに父と母、私と娘、当時一緒に住んでいた姪(めい)っ子の5人でぎゅうぎゅうになって興南高校を応援した夏の日を、私は一生忘れない。

 父の死後、生まれ育った地元を離れた。3度の引っ越しを経て、昨年末にまた地元に戻って来た。母と二人「ご先祖様が呼び戻したのかもね」と笑った。奇跡のような出会いとご縁があって、地元古島自治会の副会長を担うことになった。やっと、大好きな地元に恩返しができる機会をいただいた。地域の人がつながり、私のライフワークでもある災害や危機に強いまちづくりを、仲間たちとここで成し遂げたい。新しい目標がひとつ増えた夏になった。

 お盆前のお墓掃除の後、小さな日陰でひと息ついた。目の前に広がる青い空と、木々と、繁多川から見える景色を眺めた。私の先祖もこうやって、同じ場所からこの景色を眺めたのかと思うと、厳かで心穏やかな気持ちになった。数十年後、私の娘や翁長家の子孫たちが、同じ景色を穏やかな気持ちで眺める平和な世をつなぎたい。過去から今へ、脈々と受け継がれていく翁長家の想(おも)いを、私は私のできるカタチで未来につなぎたい。

 今年は5年ぶりに、松島青年会の道ジュネーを楽しむお盆になる。エイサー太鼓や三線、指笛の音や若者たちの元気な声を聴きながら、ご先祖様をにぎやかに見送りたい。皆さま、良いウークイをお過ごしください。

翁長由佳 おなが・ゆか

 1970年生まれ、那覇市出身。大学卒業後、沖縄観光コンベンションビューローで26年間従事。2019年6月に県内初の観光危機管理に特化した「株式会社サンダーバード」を立ち上げ、危機に強い観光地の確立を目指し日々取り組んでいる。