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証拠開示、再審の扉開く 証言のほころび次々と 法改正求める声強まる 渋る検察 ルールなしの弊害 法務省内に危機感 福井中3殺害再審へ


証拠開示、再審の扉開く 証言のほころび次々と 法改正求める声強まる 渋る検察 ルールなしの弊害 法務省内に危機感 福井中3殺害再審へ 「再審開始」と書かれた紙を掲げる弁護士=23日午前、金沢市
この記事を書いた人 Avatar photo 共同通信社

 名古屋高裁金沢支部は23日、福井中3殺害事件で服役した前川彰司さん(59)の再審開始を認めた。開始決定は第1次請求に続いて2回目。大規模な証拠開示が再審の重い扉をこじ開けた。ただ、現行法は再審請求段階の証拠開示ルールや、検察の不服申し立てへの制限を設けていない。無実を訴える人にとって著しく不利で、法改正は急務だとの声が強まっている。

渋る検察

 「287点もの開示は非常にまれ。決定は捜査機関が持つ証拠は全て出すべきだという教訓を示している」。決定を受けた後の記者会見で吉村悟弁護団長は力強く語った。

 事件では犯人を示す直接的な証拠がなく、確定判決は前川さんの遊び仲間の証言に基づき有罪と結論づけた。弁護団は第2次再審請求で、証言の信用性を突き崩そうと検察に証拠開示を強く請求。検察は渋ったが、高裁金沢支部が開示命令を出すことも示唆したため、福井県警の捜査報告メモなどを大量に開示した。

 弁護団が精査したところ確定判決を揺るがす証言のほころびが次々と判明。支援者の瑞慶覧淳さん(67)は「証拠が隠され有罪にされていた」と憤る。

ルールなしの弊害

 前川さんのような経緯をたどる再審請求は珍しくない。今月、事件から約58年を経て再審無罪が確定した袴田巌さん(88)の場合、第2次再審請求で犯行着衣とされる「5点の衣類」のカラー写真などが開示された。2014年に再審開始決定が出たが、検察が即時抗告。再審開始を巡る審理が続いた。1年以上みそに漬かっていたはずの衣類に、開示された写真のように血痕の鮮明な赤みが残るのは不自然だと認められ、捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)したとして再審無罪となるまで10年以上かかった。

 鹿児島県の大崎事件では、証拠開示などを受け、再審開始を認める決定が3回出たが、いずれも上級審で覆り、第4次再審請求が続いている。弁護人で、日弁連再審法改正実現本部の本部長代行も務める鴨志田祐美弁護士は「ルールがないことの弊害。裁判官によって証拠開示に対する姿勢が違い、検察は平気で抵抗し、上訴もする」と批判する。

法務省内に危機感

 「再審法改正に世論の注目を集めるチャンス」(袴田さんの主任弁護人の小川秀世弁護士)。袴田さん再審無罪の余韻が冷めない中、前川さんの朗報に再審関係者は沸き立つが、法改正への道のりは平たんではない。

 法務・検察関係者の間では、再審が容易になれば三審制をとる裁判の安定性が損なわれ、実質的な「四審制」となるとして、改正に根強い抵抗感がある。法務省の有識者協議会で制度の検討が続き、超党派の国会議員連盟もつくられたが、具体的な動きは見えない。

 それでも、機運の高まりに危機感を抱く幹部もいる。再審だけでなく、大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件で、威圧的な取り調べがあったなどとして、現役検事を特別公務員暴行陵虐罪で審判に付す決定が出るなど、捜査や公判の問題が噴出している。ある幹部は「再審を含めた刑事司法制度全般の見直しを、真剣に検討する段階に来ている」と語った。

(共同通信)