先月行われた衆院選で期日前投票をした人に話を聞くと、国政与党に投票した人(100人)とオール沖縄に投票した人(同)で辺野古新基地建設への賛否の傾向が分かれた。ただ、理由を聞くと、移設時期が分からない普天間飛行場の県内移設を国に押しつけられ、県民が板挟みになっている状況が浮かび上がる。(1面に関連)
自民党に投票した宜野湾市の女性(69)は、2004年8月の出来事を口にした。米軍普天間飛行場を飛び立ったヘリコプターが沖縄国際大学に墜落した事故だ。
「『今日はヘリの音が変だよ』と夫に言っていたら、『落ちたみたいだ』と情報が来た。20年前の記憶がずっと残っている。宜野湾市民として普天間がない方がいいので、早くしてほしい」
女性は「新しい基地を造らない方がいいけどね」と言って、辺野古新基地建設に賛成の「プラス2」を選んだ。
国政与党に投票した人が重視するのは、1996年に日米両国で合意された代替施設の完成を条件にした普天間飛行場返還の約束だ。
「プラス3」を選んだ宜野湾市の男性(85)は「工事を巡っていろんな課題があるのは分かっているが、早くやってほしい」と訴えた。
那覇市の会社員男性(33)も「プラス3」だ。「現実的な代替案は辺野古しかない。辺野古がダメで県外(移設)というのは空想論だ」と断じた。9月の宜野湾市長選で自公両党推薦の佐喜真淳氏が当選したことに触れ、「もう少し進展していくのではないかと期待している」と語った。
ただ、政府は佐喜真市長が市長選の公約で掲げた普天間飛行場所属機の段階的分散移転と返還時期の明確化について否定している。当面は、1月に着手した大浦湾側の辺野古新基地建設が「9年3カ月」(政府見解)かけて進むことになる。
国政与党投票者の中には、新基地建設工事や経済への期待から賛成している人もいる。
名護市の会社員男性(24)は「大きな工事で仕事やお金がいっぱい落ちるから」。建設業男性(71)は「この工事で商売しているので賛成だよ」。いずれも「プラス3」を選んだ。71歳の男性に「いつ頃の完成を期待していますか」と尋ねると、「いつできるかは分からない。自分が生きている間は造っているかな」と語った。一方、公明党への投票者を中心に、辺野古推進の国政与党に投票しても「辺野古反対」の人が20人。「どちらとも言えない」も22人いた。
公明に投票した那覇市の女性(76)は「新たな基地を造ることは反対だ」と最も強い反対の「マイナス3」。石破茂首相が幹事長時代に自民の県選出・出身国会議員の県外移設公約を撤回させ、辺野古容認の発表に同席させた13年の記者会見を振り返り、「石破氏の『平成の琉球処分』はむかつく」と憤った。
公明に投票した那覇市の女性(71)は悩みながら弱い反対の「マイナス1」を選んだ。
「やっぱり自然が破壊されるので反対。ただ、あんまり強く反対すると普天間が動かなくなる。板挟みだ」 (南彰)
今回の調査では、紙で示した7段階から辺野古新基地建設の賛否の度合いを選んでもらった。指先は揺れ、賛否の理由を聞けばさらに複雑だった。投票所周辺では、他のメディアも賛否をタブレットに入力させる調査を行っていたが、県民は二者択一では割り切れない思いを抱えていた。
いつ普天間飛行場が返還されるのか、辺野古の工事にどれだけの税金と時間を費やすのか―。政権側の情報に近いはずの国政与党支持層にさえ、大事な判断材料が届いていない。経済的な利害関係も絡ませながら、党派的な溝が固定化する。これでは国の思うつぼだ。
事務職女性(58)は調査で、東京勤務時代の記憶を打ち明けた。「本土企業の上司に『沖縄に基地が集中するのは仕方がないことだ』と言われて泣いてしまった」
そして続けた。「本土の人たちからすると、代執行もすればいいと思っているんだろう。何とかこうした状況を変えたい。一部でなく、県民全体で」
衆院選で自民党1強の国会が崩れた。県内の政治家は、2013年の「平成の琉球処分」で超党派の結束を壊されてしまった「建白書」という県民総意に立ち返るべきではないか。
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普天間思い板挟み 代執行後の衆院選 危険除去と経済期待 公明支持者、異論根強く 国政与党支持者 建白書に立ち返るべきだ 暮らし報道グループ 南 彰
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琉球新報朝刊