芸能担当記者だった2018年夏、安室奈美恵の引退を前に北谷町にあったアクターズスクールを訪れた。そこは普通の外国人住宅で、6月28日に亡くなったマキノ正幸さんの自宅も兼ねていた。30坪ほどの広さで、日本の芸能史にさんぜんと輝く、安室というスターを沖縄から誕生させた芸能スクールにしては、小さく見えた。
マキノさんは「箱庭みたいな日本の芸能界で沖縄のおっさんが、タレント100人引き連れてシェアを取りに行こうとした」。90年代の日々を自虐的に語ってみせ「だから今、沖縄から世界を狙うんだ」と目を輝かせた。そして「安室は16ビートを刻んで歌い踊れた」、と16ビートのグルーブ感を踊って、再現してみせた。
1983年に、沖縄に芸能学校「アクターズスクール」を開校し、90年代、安室奈美恵やDA PUMPら多くのスターを輩出し、子どもの才能を引き出す傑物として注目を集めた。99年、恩納村にフリースクールも開校。しかし2000年に入ってからは、新たなスターを生み出せず、子どもの個性を育てる環境提供を目指したフリースクールも、理想の実現半ばで頓挫した。約6億円の借金を背負い、宜野湾にあった6階建てのアクターズビルを売り払い借金を完済した末、たどり着いたのは、無償で才能を育てる冒頭の芸能学校だった。
そして2019年春、90年代に共に成功を収めた盟友・平哲夫氏と再タッグを組み、次世代スターを発掘するオーディションを実施した。オーディションが一段落した同年12月、マキノさんは「安室のおかげで、今ここにいると思っている」と振り返り、「今でもブリガドーンを探している」と熱っぽく語った。
「ブリガドーン」は100年に1回、スコットランドに現れる幻の村。同名の映画では、偶然同村にたどり着いた男が、村娘と恋に落ち、愛の力で奇跡を起こす。安室奈美恵という100年に一度の才能に出会い、沖縄の子どもたちの可能性に魅了されたマキノさんは、晩年まで「沖縄からスターを出す」という自らの夢を追い続けていた。
(藤村謙吾)