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コーヒーと新植民地主義 ロ、アフリカに影響拡大<佐藤優のウチナー評論>


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佐藤優氏

 第2回ロシア・アフリカ首脳会議が7月27~28日、ロシアのサンクトペテルブルク市で開催された。この行事にはロシアのプーチン大統領が特に力を入れた。プーチン氏の戦略は1960年代後半から70年代にソ連がアフリカの民族独立運動を支援した遺産を現在のロシア外交に継承することだ。

 首脳会議に出席した49カ国(うち首脳が出席したのは17カ国)との関係では、プーチン氏は目標を達成したと思う。筆者にとって興味深かったのは28日の全体会合におけるムセベニ・ウガンダ大統領の発言だ。ムセベニ氏はアフリカ経済が停滞している原因についてこう述べる。

 <アフリカにとって、自国の旗を手に入れること、つまりそのような独立だけでは十分ではありません。かつての大都市からの健全な分離が必要だったのです。現在でも、私たちは開発の課題や植民地時代の遺産に直面しています。私たちはある程度の進歩を遂げましたが、まだ多くの課題が残っています。アフリカのGDPが現在2兆7千億ドルで、アメリカや中国はもちろんのこと、日本やドイツなどの経済規模よりも小さいと言われるのはそのためです。アフリカ経済のこのような状況は、開発の遅れに起因するものであり、その原因をここで列挙する時間はありません。しかし、私たちはそれらを特定し、アフリカ連合の兄弟たちとともに、これらの問題を解決しようとしています>(7月28日、ロシア大統領府HP、他の引用を含めロシア語から筆者訳)。

 アフリカ諸国は、先進資本主義国によって構造的に差別されている。その例として、ムセベニ氏はコーヒーを挙げる。

 <コーヒービジネスの総量は現在4600億ドルです。これが世界のコーヒー市場の規模です。しかし、アフリカ、ブラジル、コロンビアなどのコーヒー生産国は、この市場で250億ドルしか得ていません。総額4600億ドルのうち、コーヒー生産国が得られるのは250億ドルに過ぎません。そしてアフリカは4600億ドルのうち25億ドルを占めています。ウガンダの生産量は8億袋で、現在では1袋60キログラムのものを8億袋生産しています。ドイツはコーヒーの生産も栽培もしていませんが、年間68億ドルというアフリカ諸国よりも多くの収入をコーヒーから得ています>(同上)。

 コーヒー生産によってアフリカ全体が得ているのが年間25億ドルに過ぎないのに、コーヒーを全く生産していないドイツが68億ドルも得ているというのは、どう考えても筋が通らない。この構造についてムセベニ氏はこう説明する。

 <アフリカは追い詰められています。私たちは原材料、つまり農産物の原材料や鉱物を生産していますが、製造業を営んでおらず、付加価値のある製品を生産していません。1キログラムの生コーヒーは2・5ドル、焙煎(ばいせん)されたコーヒーは40ドルで、焙煎はアフリカの外で行われるため、付加価値は全てアフリカの外にとどまる。これはアフリカの経済成長を阻害する結果となっている問題です>(同上)。

 構造的差別の典型的な例だ。この発言を受けてロシアはアフリカ諸国にコーヒーの焙煎工場やインスタントコーヒーの製造工場を造ると思う。西側諸国がアフリカ諸国に対する構造的差別を放置しておくと、その隙間にロシアが入ってくる。欧米の新植民地主義を脱構築する勢力としてプーチン氏はロシアの影響をアフリカに拡大しようとしている。

(作家・元外務省主任分析官)