2023年の沖縄県政は、国の南西諸島の防衛力強化がさらに加速する中で、軍用機の墜落事故や環境問題など、軍事強化に伴う問題点もクローズアップされた。辺野古新基地建設問題では、地方自治体の権限を奪う「最後の手段」とされる代執行に踏み切ってまで建設を進める政府と、建設反対の民意を背景にした玉城県政が鋭く対立した。激動の23年を振り返る。
<新基地建設>辺野古、国交相が代執行 設計変更承認、来月着工へ
米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画は今年、重大局面が続いた。県が新基地建設阻止の「切り札」としてきた大浦湾側の軟弱地盤の改良に伴う設計変更申請を不承認とした処分を巡り、最高裁は9月4日、県の上告を棄却した。
その後、国土交通相が県に行った承認を求める勧告と指示に対し、玉城デニー知事は10月4日、「期限内に承認を行うことは困難」と回答した。
国交相は同5日、防衛省が出した設計変更申請を県に代わって承認する代執行訴訟を提起した。この訴訟では代執行の3要件を巡り、県と国の主張が対立した。
中でも公益性については移設を進めなければ普天間飛行場の危険性除去が実現できず「著しく公益が侵害される」とした国に対し、県は新基地建設に繰り返し反対してきた「県民が示す民意こそが公益」だと主張した。
福岡高裁那覇支部は12月20日、国側の主張を認め、県が敗訴した。これを受けて国交相は同28日、代執行を実施した。来年1月12日にも大浦湾側の工事に着手するとみられている。
一方、軟弱地盤を巡っては沖縄防衛局が2007年段階の報告書で、海底に軟弱な地層が存在し、基地の設計には追加のボーリング調査などが必要と結論付けていた。また、米軍が1966年にまとめた辺野古に建設を検討した米海軍飛行場のマスタープラン(基本計画)でも、軟弱地盤の存在が指摘されていたことも分かった。
防衛局は、地盤に大きな問題はないと説明して手続きを進め、当初の埋め立て承認申請願書を2013年に県に提出し、承認を得た。それ以前には軟弱地盤の存在が把握されていたことになり、新基地計画のずさんさが浮き彫りとなった。
(知念征尚)
<米軍・自衛隊>過重な基地負担 相次ぐ墜落事故、駐屯地開設
2023年も、沖縄の過重な基地負担が浮き彫りとなる1年だった。
4月6日、宮古島沖で陸上自衛隊ヘリの事故が発生し、搭乗していた陸自第8師団(熊本県)の師団長を含む10人が死亡した。同師団は有事には南西諸島に派遣される。師団長が地形などを確認するための飛行中に事故が起きた。
11月29日、鹿児島県屋久島沖で、米空軍横田基地(東京)所属のCV22オスプレイが墜落し、乗っていた8人全員が死亡した。米軍は12月、全てのオスプレイの飛行を世界中で停止した。事故は山口県の岩国基地から嘉手納基地へ向かう途中に発生。日常的に「欠陥機」が頭上を飛び交う沖縄の危険性が顕在化した。
米空軍の武器搭載可能な無人機MQ9が10月13日、一時配備されていた海上自衛隊鹿屋航空基地(鹿児島県)から嘉手納基地に移駐した。海外では墜落事故も発生しており、県は「負担軽減に逆行する」として配備の見直しを求めている。
自衛隊の増強も続く。3月16日、陸自の石垣駐屯地が開設した。22年までに与那国島、宮古島にも自衛隊の駐屯地が置かれ、南西諸島の「空白」が埋まった形だ。さらに22年12月の安保関連3文書の改定を受けて、今後も他国を攻撃する能力を持つ部隊が配備される可能性も高まる。
4月22日、北朝鮮による人工衛星の発射に備え、防衛相が破壊措置準備命令を出した。航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)などが宮古島、石垣島、与那国島に展開された。北朝鮮の衛星打ち上げ失敗などにより、展開は長期化。11月21日に北朝鮮が打ち上げた後も展開している。防衛省は規模を縮小した上で、引き続き一部を現地に残す方向で調整しているという。
(沖田有吾)
<不祥事>職員逮捕、PFAS流出
県職員による不祥事や不適切な会計事務処理が相次いだ。県児童相談所の男性職員=懲戒免職で処分済み=が学校で女子児童との面接中にわいせつな行為をしたとして、強制わいせつ容疑で逮捕される事件が5月に発生した。
県庁地下駐車場から、発がん性などが指摘される有機フッ素化合物(PFAS)を含む泡消火剤が流出し、久茂地川へ流れ出ていたが、公表が遅れた問題も起きた。
9月には土木建築部所管の二つの整備事業特別会計の22年度決算が地方自治法違反の「赤字状態」となる前代未聞の事態が発覚。また、土建部所管の二つの事業で手続きミスがあり、予定していた国庫補助金を得られなくなる事案もあった。
県は22~23年度にかけて不適切な事務処理が相次いだことで当初見込んでいた国庫支出金が使えなくなり、一般財源から最大7億5051万円の穴埋めを検討している。玉城デニー知事ら県三役は引責で給与を減額した。
(梅田正覚)
<地域外交>平和構築へ独自展開 部署新設、台湾を訪問
玉城デニー知事は2月の県政運営方針で、アジア太平洋地域の緊張緩和や信頼醸成に向けて「平和構築に貢献する独自の地域外交を展開する」と表明し、4月には地域外交室を設置した。
玉城知事は9月、スイス・ジュネーブで開かれた国連人権理事会に出席し、沖縄の過重な基地負担などを国際社会に訴えた。国連の特別報告者らとの面談も実現した。
知事や副知事による海外訪問も活発に行われた。6月、照屋義実副知事が韓国・済州島を訪問し、済州特別自治道が呼びかけている「グローバル平和都市連帯」へ参加することで合意した。
7月には玉城知事が日本国際貿易促進協会訪中団の一員として中国を訪れ、共産党序列2位の李強首相らと会談。直行便の運行再開や、県民が中国へ渡航する際のビザ取得手続きの簡素化を要請した。玉城知事は11月に台湾も訪問した。2024年にはインドネシア、フィリピンなどを訪問する構想があるという。
有識者による万国津梁会議は12月、沖縄が「国際平和創造拠点」を目指すことなどを盛り込んだ提言案をまとめた。1月に知事に提出する予定だ。
(沖田有吾)
<台風6号被災>各地で猛威、死者も 34市町村に災害救助法適用
2023年には六つの台風が沖縄地方に接近した。特に7月下旬から8月初旬にかけて沖縄地方に接近した台風6号は死者も出るなど、県内各地で猛威を振るった。
8月2日には県内全世帯の34%となる21万5800世帯が停電。その影響で県内の広範囲で断水が発生した。集合住宅ではポンプが作動せず、風呂やトイレが使えない世帯が相次ぐなど、県民生活へ大きな影響を与えた。
停電被害を受けて、県は34市町村に災害救助法を適用し、復旧対応に取り組んだ。
(與那原采恵)
<PFAS土壌調査>全県調査、分析公表へ
県環境部は8月、発がん性が指摘されている有機フッ素化合物(PFAS)について、土壌と水質の全県調査を開始した。
PFASは米軍基地周辺の地下水などから高い値で検出されていることから、県は残留実態を調査するため、これまでの水質調査だけでなく、本年度からは土壌調査も開始。基地周辺と比較するため調査範囲も全県に拡大した。
県は12月末までに、水質については那覇市を除く40市町村、土壌は41市町村での検体採取を終えた。年度末までには市町村と調整の上で分析結果を公表する方針だ。
(慶田城七瀬)
<南部土砂問題>鉱山の農地転用許可 採掘、基地埋め立てを懸念
県は9月、糸満市米須の鉱山開発のための農地転用許可を申請者の沖縄土石工業に通知した。農地転用が許可されたことにより、鉱山から琉球石灰岩の搬出が可能となった。
米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設に用いる埋め立て土砂の調達先には糸満市など本島南部地区も挙がっている。
沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」などの市民団体は、埋め立てに沖縄戦の激戦地の遺骨の混じった土砂が使用される可能性を指摘し、採掘に関する許可をしないよう県に求めていた。
(慶田城七瀬)
<差別のない社会づくり>差別的言動解消で県条例
県議会は3月、「県差別のない社会づくり条例」案を賛成多数で可決した。公共の場やインターネット上での差別的言動(ヘイトスピーチ)の解消を図ることが目的で4月に施行(一部規定は10月)された。ヘイトスピーチを巡る県条例は初の制定。
罰則については、県側が「過度な規制になる」と盛り込まず、普及啓発を目的とした理念型条例となった。また、外国人を対象とした言動には発言者の公表措置があるが、県民であることを理由にした事案は対象外となるなど課題も残した。県は施行3年後をめどに見直す予定。
(嘉陽拓也)